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【2026最新】若手教員の離職率は高いのか?東京都のデータ5.5%から読み解く「現場の献身」とDX支援の必要性

ゴールデンウィーク。新学期の怒涛のような1か月を乗り越え、ようやく一息ついている先生方も多いのではないでしょうか。あるいは顧問として連休中も部活動での指導に取り組み、カレンダー通りの休みとは無縁の日々を送っている方もいらっしゃるかもしれません。日々の業務、本当にお疲れ様です。まずは全国の先生方に心からの敬意と感謝をお伝えしたいと思います。

新学期の1か月を駆け抜けた職員室のリアル

4月。満開の桜とともに、希望に胸を膨らませて教壇に立った新任の先生たち。彼らのフレッシュな挨拶に、職員室の空気もふっと明るくなったことでしょう。しかし、ゴールデンウィークを迎える今の時期、彼らの顔には少しずつ疲労の色が濃くなっているはずです。

初めての授業、慣れない中で進む学校行事、予測不能な子どもたちの反応、保護者からの問い合わせ、そして山のように積まれる事務作業。次から次へと押し寄せる「初めて」の波に揉まれ、毎日のように遅くまで残り、翌日の準備に追われる。そんな若手の背中を、先輩教員である皆さんは、ご自身の業務も山積みの中で、痛いほど心配そうに見つめているのではないでしょうか。

「大丈夫? 何か困ってない?」 すれ違いざまに声をかけ、放課後には時間を割いて相談に乗り、時には一緒にプリントを作り、保護者対応の矢面に立ってあげる。教育現場における「初任者育成」は、教育委員会が用意する制度としての研修だけでなく、こうした現場の先輩教員たちの無数の「見えないサポート」と自己犠牲によって成り立っています。

昨今、「教育DX」や「校務効率化」が叫ばれ、学校現場のアップデートが急務とされています。しかし、機械化できない「人と人との関わり」や「心のフォロー」は、結局のところ現場の先生方の情熱と献身に委ねられているのが実情です。


データで見る若手教員の「驚異の定着率」

ここで、少し見方を変えてみたいと思います。「若手教員の早期退職」がニュースなどでセンセーショナルに取り上げられることがあります。たしかに、志半ばで学校を去ってしまう若手が存在するのは事実であり、重く受け止めるべき課題です。 しかし、私は最近発表されたある公的なデータを見て、まったく別の感想を抱きました。それは、「日本の学校現場は、信じられないほど初任者の育成と定着を頑張っている」という事実です。

先日、東京都教育委員会が「令和7年度条件付採用教員の任用について」という数値を公表しました。地方公務員法等に基づき、新たに採用された教員はすべて条件付採用となり、教諭であれば1年間の勤務を経て正式採用となります。 そのデータによると、令和7年度の新規採用教員(条件付採用教員)4,102人のうち、正式採用とならなかった者は225人です。そのうちの大部分である205人が「年度途中の自己都合退職者等」として学校を去っています。

以下の推移を見てください。

【東京都 条件付採用教員における「正式採用とならなかった者の割合」の推移】

  • 令和3年度:4.2%(採用3,134人中133人)

  • 令和4年度:4.4%(採用2,429人中108人)

  • 令和5年度:4.9%(採用3,472人中169人)

  • 令和6年度:5.7%(採用4,237人中240人)

  • 令和7年度:5.5%(採用4,102人中225人)

たしかに、割合としては過去5年間で微増傾向にあり、現場の厳しさが増していることを示唆する注視すべき数字ではあります。しかし、見方を変えれば、実に94.5%の教員が、激動の1年間を乗り越えて正式採用に至っているのです。

一般企業との比較が浮き彫りにする「学校現場の底力」

ここで、一般企業との比較をしてみましょう。厚生労働省の資料「新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況」によると大卒新規採用者が1年以内に離職する率は10~12%で推移しています。「3年で3割辞める」というのは広く知られた事実です。営利を目的とし、数ヶ月に及ぶ手厚い新入社員研修、先輩社員が専属でつくメンター制度、1on1ミーティング、手厚い福利厚生を用意している民間企業であっても、1割以上の若手が1年以内に会社を去るのが現代社会のリアルです。


それと比較して、この東京都の「5.5%」という数字をどう見るか。 教員の仕事は、相手が子どもという予測不能な存在であり、プレッシャーも責任も極めて重い職業です。しかも、民間企業のように数ヶ月の座学研修があるわけではなく、4月の初日からいきなり「先生」として教壇に立ち、実戦の中で学んでいかなければなりません。にもかかわらず、1年目の離職等(正式採用とならない割合)が一般企業の半分程度に抑えられているのです。


これは、「若手自身の根性」だけで片付けられるものではありません。この数字の裏には、空き時間を削って若手の悩みを聞き、ミスをカバーし、愚痴を聞き、時には夕食に誘って励ましてきた、先輩教員である「あなたたちの底知れぬ努力とフォロー」が確実に存在しているのです。

現場の先生方は、本当に、本当によくやっています。この数字は、皆さんが若手をギリギリのところで繋ぎ止め、育て上げている「努力の結晶」であり、誇るべき実績であると私は断言します。

数字が語る現場の過負荷 ――

「密室の指導」と「見えない業務」が精神を削る

先輩教員たちの手厚いフォローによって高い定着率が維持されている一方で、現場の教員たちがいかに過酷な環境で踏ん張っているか。それは別の公的なデータからも痛いほど読み取ることができます。

文部科学省が公表した「令和6年度 公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、教育職員の精神疾患による病気休職の要因として最も多かったのが

「児童・生徒に対する指導そのものに関すること(26.5%)」でした。

「職場の対人関係(23.2%)」

「校務分掌や調査対応等、事務的な業務に関すること(12.7%)」

と続きます。

相手が子どもである以上、指導に明確な正解はありません。特に経験の浅い若手教員は、どう指導すべきか悩み、正解が見えないまま「密室の教室」で孤独を深めていくリスクを常に抱えています。それに加えて、終わりの見えない膨大な事務作業が容赦なくのしかかってくるのです。

先輩教員たちは、自らもこうした重圧や膨大な業務と戦いながら、それでも何とか時間を捻出して若手をフォローしています。しかし、「気合」と「自己犠牲」に基づく属人的な支え合いだけで、果たしてこの先も日本の教育現場を維持できるのでしょうか。


属人的なフォローから、「仕組み」による支援へ

「これからも現場の先輩方の頑張りで何とかしてください」と言うのは、あまりにも残酷で無責任です。 先輩教員もまた、日々の学級経営、保護者対応、山積する校務に追われています。その上での初任者指導は、心身を削るギリギリの綱渡りです。「自分が若手の頃も先輩に助けてもらったから」という恩送りの精神は尊いものですが、この「属人的な献身」に依存したシステムは、教員不足が叫ばれる中、いずれ限界を迎えます。


だからこそ、ここから先の未来は、皆さんのその尊い努力を「ICT活用」や「データ」で下支えしていく必要があります。教育DXの本当の目的は、単にパソコンを配ることでもFAX文化から離れペーパーレス化することでもなく、「教員同士がコミュニケーションをとり、互いに支え合うための『時間的な余白』を作ること」なのです。


たとえば、若手が抱え込みがちな「膨大な事務作業」のアプローチ。 かつては紙で行っていたアンケートの集計や、出欠確認、行事の計画書の作成などをクラウドツールに完全に移行する。これだけでも、若手教員が放課後に電卓を叩いたり、印刷室と職員室を往復したりする時間は劇的に減ります。 さらに、学年団や教科担任の間で、チャットツールや校務支援システムを活用した「こまめな情報共有」を仕組み化することも重要です。若手教員は「こんな些細なことを聞いていいのだろうか」と遠慮しがちです。しかし、日常的なデジタル上のコミュニケーションツールがあれば、わざわざ先輩の席まで行って声をかける心理的ハードルが下がり、ちょっとした相談やSOSを出しやすくなります。

また、若手教員の「業務量」や「メンタルヘルス」を可視化するアプローチも求められます。 毎日の退勤時間だけでなく、「今週はどんな業務に時間がかかったか」「困っていることはないか」を、簡単なアンケートツールで定期的にチェックする仕組み(パルスサーベイなど)を取り入れている学校もあります。これまでは先輩教員の「勘」や「観察眼」に頼っていた若手の不調のサインを、データとして可視化することで、誰かが倒れてしまう前に組織全体でフォローに入る体制を作ることができるのです。



教員の頑張りを、見ている人は必ずいる

私も教育界で18年ほど働いているので多くの学校の先生とも交流がありますし、私自身も幼稚園・小学校・中学校に通う三児の父として、また部活動の外部指導員として、子供と接する機会があります。私はそのような様々な角度から教育現場を見つめてきました。 外から学校を見ていると、先生達から直接話を聞くとはじめて耳にするような先生達の業務もあり、驚かされる事もしばしばあります。本当に頭が下がる思いです。先生方がどれほど身を粉にして、子どもたちのため、そして後輩たちのために奮闘しているか。世間では時に学校に対する厳しい声も聞かれますが、皆さんの日々の献身を理解し、深く感謝している保護者や地域の人間は数え切れないほどいます。


文部科学省や教育委員会など、上位層の皆様にもぜひ伝わってほしいと思います。現在の「5.5%」という離職等(正式採用とならなかった割合)は、決して自然に達成された数字ではありません。現場の先生方が血の滲むような思いで若手を支えているからこそ成り立っている、ギリギリの数字なのです。この現場の「善意」と「自己犠牲」に甘えるのではなく、彼らの負担を根本から軽減するための仕組みづくり——徹底した校務効率化と、若手を孤立させないためのシステム的支援——にこそ、予算とリソースを投じるべきです。


ゴールデンウィーク。もし今、この記事をご自宅のソファで、あるいは職員室で読んでくださっているなら、少しだけ深呼吸をしてみてください。 「なんだかんだ言って、自分たち、本当によくやってるよな」 そうやって、ご自身と、隣で頑張っている同僚を大いに褒めてあげてください。皆さんのその手で、日本の教育は今日も確かに支えられています。


連休明け、一般的に「5月病」と言われる心が疲れてしまう人が現れる時期です。感受性の豊かな子どもたちや、緊張の糸が切れかかっている若手教員に、どうか温かい声をかけてあげてください。そしてそのために、まずは先生ご自身が、この連休で少しでも心と体を休められることを、心から願っています。

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<参照資料> ・「令和7年度条件付採用教員の任用について」(東京都教育委員会, 2026年4月公表)

萩原 達也(はぎわら たつや)

プロ野球審判員という極めて異色のキャリアから、教育業界最大手Benesse(ベネッセ)ホールディングスグループ企業へ。
厳格なジャッジが求められる現場から、日本の教育を牽引する巨大組織での実務へと身を転じた経験から、教育業界における広範な知見と深い洞察を培う。現在はIT企業に籍を置き、テクノロジーを軸とした教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に従事。
現場で磨いた独自の視点と、Benesseで得た教育の真髄、そしてITによる変革力を掛け合わせ、固定観念にとらわれない「教育界のアップデート」を提言する。