小林昭文先生Q&Aシリーズ
第2回 【質問に答えて2: テーマ:ドリル・スキルの正しい使い方】
Q 「5つのスキル」の中の3番目に「ドリル・スキル(反復練習時)」というのがありますよね。授業でも英単語や歴史の年代を覚えるのに使われますし、運動部でもシュート練習・バッティング練習などもドリルだと思います。そういう意味で「ドリル・スキル」を先生たちが使うことは多いと思います。この「スキル」について意味や使い方の留意点などを教えてください。A うれしい質問です。この分野では、「ドリル」「ティーチング(教える)」「コーチング」「トレーニング」などの英語が盛んに使われます。1つ1つの英語の意味に沿って考えると分かりやすいのですが、それを知らないと区別しにくくなります。その結果、誤解されてしまい、それぞれの「ドリル・スキル」の効果が出せていないこともしばしばです。語源に基づき、意味と使い方について丁寧に説明していきます。以下の順に述べます。
⑴【誤解されがち】ドリルは“穴あけ”ではない。本質は「何度も何度も繰り返す」こと。
⑵【重要】トレーニングの本質は集団を目的地まで「箱に入れて引きずる」こと。
その中に「個別指導」を入れると、〈全体が崩れる〉。
⑶【危険】コーチング・スキルをトレーニングに混ぜると逆効果になることがある。
⑷【注意】後日返却の〈確認テスト〉はトレーニングとしては効果が低い。
~トレーニングは「結果がすぐにわかる」が《命》~
⑸【メンタリングは〈上位概念〉】として役に立つ~ただし1対1の技法である~
⑹【集団には「グループ理論(グループ・ダイナミクス)」】が効く
⑴ドリルの本質 【ドリル=繰り返し】穴あけではない
多くの人が「ドリル=穴を開ける道具」と理解していますが、教育技術での意味は違います。ドリルとは「同じ動作を何度も何度も繰り返すこと」です。実際のドリルの刃は、高速回転しながら 「同じ場所に刃を当て続ける」ことで固い板にも穴を開けます。(図1,2)


計算ドリル、漢字ドリル、英単語の反復練習、動詞活用の練習、バスケットボールのシュートを繰り返す練習、野球のピッチングマシンを使って繰り返す集中的バッティング練習‥これらはすべて「繰り返し」によって脳と身体を変化させる技法です。このように「ドリル」は「繰り返す」の意味ですが、その「繰り返し方」は多様です。それぞれの目的・特徴に合わせて使う必要があります。(図3)

⑵トレーニングの本質~【トレーニング=集団を目的地まで引っ張る技法】~
語源は “trahere”(ラテン語の「トラヘレ」。「引く・引きずる」の意味)。教育技術では「先生1人が、多数の生徒を目的地まで引っ張っていく技法」の意味です。(図4)

つまり、「 1対多数 」「全員が同じ動きをする」「質より回数」「止まらず続ける」、この4つが揃って初めて「トレーニング」ということになります。
その途中で個別指導(ティーチング等)を入れると効果減少の可能性があります。(図5)

⑶【危険】コーチング・スキルをトレーニングに混ぜると逆効果になることがある。
〈 4つの技法の違い〉
技法の違いを表1と図6にまとめました。この違いを踏まえて使うことが大事です。
「ティーチング」~上から下へ〈教える〉のイメージです。
「トレーニング」~集団・グループ・クラス・チームなどの全員をまとめて目標地点まで「運ぶ」技法です。
〈表1 : 4つの技法の違いと留意点〉
技法 | 立ち位置 | 目的 | 人数 | NG行動 |
ティーチング | 上→下 | 知識伝達 | 1対多数 | 長すぎる説明 |
トレーニング | 前→後ろ | 集団を目的地へ | 1対多数 | 個別指導 |
コーチング | 横並び | 思考促進 | 1対1 | 褒めすぎ |
カウンセリング | 向かい合う | 内面理解 | 1対1 | 契約なしの質問 |

〈特に「コーチング」のイメージ〉
「コーチング」~基本的には「クライアント(依頼人)」をその人の目的地に連れて行く「コーチ」がすることです。「コーチ」の語源は4輪馬車。クライアントをコーチは目的地まで運ぶ・連れて行くというイメージです。馭者(コーチ)とクライアントが横に並ぶので両者が「並走する」というイメージにもなります。1対1の関係であることにも注意してください。(図7)

コーチングの「さ・し・す・せ・そ」は1対1では有効ですが、 集団指導のトレーニング中に使うと「褒められ競争(アドラー)」を引き起こす可能性があり、危険です。
〈表2 : コーチングの「さしすせそ」〉
さ | 「さすが」「最高ですね」 |
し | 「知りませんでした」 |
す | 「すごいですね」「すばらしい」 |
せ | 「センスあるね」「説得力あるね」 |
そ | 「そうなんてですね」「その通り」 |
⑷トレーニングは“結果がすぐにわかる”が命【確認テストを後日返却はトレーニングではない】
例えば、バスケットボールのチェストパス練習は「5分間で200本」のように、目標を定めて先生かマネージャーがストップ・ウオッチを持って始めます。「終わり!」の号令の時に「150本だったら、〈もう少し〉」「100本だったら〈先が長い、頑張ろう〉」と結果がわかり、次の目標設定もできます。先生が1人ずつに説明する必要はありません。
一方、授業中の「単語テスト」「年号テスト」を後日返す方式は…「評価には使えるが、トレーニングにはならない」可能性が大です。先生の採点も手間も増えます。それよりも、その場でペアで出題し合うような方法の方が効果は高い、ということです。
⑸メンタリングは“上位概念”として役に立つ~ただし1対1の技法である~
ティーチング、トレーニング、コーチング、カウンセリング等の理論のどれかを学んだ先生が、その技法を教科授業・担任活動・部活動指導等の全てにそのまま持ち込むとうまく行かないことがあります。それを補う理論としては「メンタリング理論」があります。(図8)
「オデュッセイア(*1)」に登場する「Mentor(メントール)」という老賢人が、オデュッセイア王が戦争で遠征する時に、王子テレマコスを育成していた方法という意味です。これがカウンセリング、コーチング等の統合理論と言われています。相手(クライアント・生徒)の能力・心理状態に応じて使い分けるという理論です。私はこれを意識して使っていました。但し、これは1対1の理論と技法です。教室での授業、特にグループ活動を使う時はそのままでは使えません。
(*1)ホメロス作の西洋文学の傑作の1つ。

⑹集団指導には「グループ理論(グループ・ダイナミクス)」が効く
歴史的には、レヴィン「場の理論」 → ロジャーズ「非構成的エンカウンター・グループ」 → 国分康孝「構成的グループ・エンカウンター」→「プロジェクト・アドベンチャー」と発展してきました。私は偶々、この全てを学ぶことができたので、その体験を活かして、生徒指導等に役立てていました。この詳細は別の機会に説明することにします。
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小林昭文(こばやし あきふみ)
埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人
