【現場の悲鳴】「気合い」では子どもの命は守れない。学校の冷房完備と部活動ルールの「組織的判断」が急務な理由
全国の先生方、連日の猛暑の中、本当にお疲れ様です。
以前、こちらの記事(夏休み学校開放に関する記事https://michibiq.com/posts/obYzt_tG)で、夏休みの学校のあり方について触れました。先生達の立場と権利を守りながら地域と連携する開かれた学校づくりを進める事自体は素晴らしい取り組みですし、意義のある方向性だと思います。ですが、そこに大前提として欠けている、ある「決定的な視点」があるような気がしてならないのです。
それは、「今の学校設備は、命の危険がある夏の暑さに耐えうるものになっていない」という残酷な現実です。
何よりも「設備投資」が先決である
学校を開放して地域で活用する議論の前に、子どもたちや先生方が一日の大半を過ごす学校の冷房完備は、それこそ「待ったなし」の最優先課題ではないでしょうか。
もちろん、文部科学省も決して手をこまねいているわけではありません。災害時の避難所としての機能を強化する意味も含めて、「2035年までに公立小中学校の体育館への空調設置率を95%にする」という明確な目標を掲げています。補助金や交付金などの財政支援を設けて自治体の背中を押している姿勢は、国としての責任を果たそうとする前向きな取り組みとして大いに評価されるべきだと感じます。
しかし、現場のリアルな時間感覚からすれば、「2035年では遅すぎる、それまでに何回夏が来ると思っているんだ」というのが本音ではないでしょうか。
昨年のデータを見ても、全国の公立小中学校の体育館への冷房設置率はわずか22.7%にとどまっています。さらに深刻なのは、東京都が9割を超えている一方で、岩手県や佐賀県では0.8%という、自治体間で生まれている絶望的なまでの地域格差です。これでは生まれた場所によって子どもの安全に格差が生じていると言わざるを得ません。

教育環境のアップデートは、巡り巡ってこの国の根幹を支える未来への投資です。「気合い」や「ちょっとした工夫」といった、現場の自己犠牲や精神論に頼るフェーズはもうとっくに過ぎています。国や自治体には、既存の枠組みを超えたスピード感で、予算を最優先で「設備投資」に投入する英断を期待したいところです。
陽の当たらない体育館競技に潜む「見落とされがちなリスク」
設備が整っていない中で今まさに起きているのが、ニュースでも連日報じられている痛ましい熱中症の多発です。弓道場で扇風機しか稼働していない中で女子高校生が救急搬送されたり、体育館でのバスケ部の練習中、あるいは屋外での活動中に生徒が倒れるケースが全国で後を絶ちません。
ここで少し、私の過去の経験をお話しさせてください。
実は私、かつて野球の審判員を務めていた時期があります。真夏の炎天下、プロの試合は極限の緊張感の中で何時間もグラウンドに立ち続ける過酷な仕事でした。ただ、その経験から振り返ると、どれだけ気温が高くても「風」が少しでもあると、体感としては意外と平気だったりするのです。言い聞かせていただけかもしれませんが、、、。また、毎日ずっと屋外にいるため、自然と体が暑さに慣れる「暑熱順化」ができていたという側面は確かにありました。
この経験を踏まえて今の学校現場を見ると、ある懸念が頭をよぎります。それは、「日頃から陽に当たらない体育館競技の方が、実は屋外よりも危険が潜んでいるのではないか」という点です。
例えばバドミントン部などは、競技の特性上、わずかな風でもシャトルの軌道が変わってしまいます。そのため、練習中は窓を完全に閉め切り、扇風機すら止めて行わざるを得ないと耳にします。私はその競技の専門家ではないので偉そうなことは言えませんが、エアコンのない閉鎖空間で風も通さない状態がどれほど恐ろしいか、想像するだけで背筋が凍ります。
もちろん、「競技の質」を守ることは大切です。しかし、命の危険がある夏の期間だけでも、例えば「涼しいエアコンの効いた別室で、シャトルを使わない筋トレやステップなどのトレーニングに切り替える」といった、これまでの常識にとらわれない柔軟な工夫や割り切りはできないものでしょうか。指導者側も、従来の練習メニューを疑ってみるタイミングに来ているのかもしれません。
先生「個人の責任」にするのはもう限界
そして、現場の先生方を最も苦しめている最大の課題が、「熱中症対策(部活動を実施するか否か)の判断が、顧問など個人の裁量に委ねられすぎている」という構造的な問題です。
各自治体や文科省からは、当然ながら熱中症対策を含めた「ガイドライン」が降りてきているはずです。しかし、現実の学校現場にはいまだに「大会前だから」「自分たちの時代はこれくらい平気でやっていた」と、過去の成功体験からガイドラインを軽視し、熱中症警戒アラートが発出されている異常な暑さの中でも活動を強行しようとする雰囲気が一部に残っているのも事実です。
真面目で生徒思いの先生ほど、「ここで自分だけが練習を休みにしたら、熱心な他の先生や保護者から『やる気がない』とクレームが来るのではないか」と板挟みになります。一個人の責任と判断で「中止」を勝ち取るには、あまりにも大きな精神的負担とエネルギーが必要とされているのです。
ICTを活用し、「組織的」に命を守る強い意志を
生徒の安全と命を守るためには、部活動をやりたい一部の教員の熱意が空回りしてガイドラインを無視してしまうようなケースを、「組織の仕組みとして強制的に排除する」ことが絶対に必要です。
たとえば名古屋市では、記録的な暑さを受けて「空調の効かない環境での部活動は中止するよう通知」を教育委員会から出しました。これによって、ある中学校では屋内でエアコンを適切に入れた状態で活動を行うなどの対応が取られています(※それでも体調を崩す生徒が出ており、暑さの脅威は計り知れませんが、判断の基準が明確になった意義は大きいです)。
現代はICTツールがこれだけ発展している時代です。熱中症警戒アラートやWBGT(暑さ指数)の正確な予測データは瞬時に手に入りますし、学校全体、あるいは地域全体へ一斉に連絡を回すことだって容易なはずです。
技術的には判断を自動化・システム化できる環境が整っているのですから、あとは「アラートが出たら、例外なく管理職や教育委員会など『立場ある人間(組織)』が活動中止の判断を下す」という、トップダウンのルール徹底を強い意志を持って行うだけではないでしょうか。
「昔はやっていた」「少しぐらいなら大丈夫だろう」。そうした過去の物差しや、現場の「空気感」に流された一瞬の油断から、取り返しのつかない重大な事故は起こります。
「ガイドラインがある」ことと「それが現場で機能している」ことは全くの別物です。現場からの反発や「練習時間が足りなくなる」といった不満の声が一時的に上がったとしても、そこは組織が強い姿勢で臨み、盾となって現場の先生を守るべきです。組織としてストップをかける絶対的な仕組みがあって初めて、先生方も後ろめたさを感じることなく、安心して生徒を休ませることができるのではないでしょうか。
教育界のインフラをスピード感を持って整えること。そして、現場の先生が過度な責任や「空気の読み合い」から解放され、本来の教育活動に専念できる環境を作ること。それこそが、子どもたちの命を守り、ひいては日本の未来という国の根幹を支えることに直結するはずです。
MichibiQでは、これからも現場で汗を流す先生方のリアルな課題感に寄り添い、少しでも解決の糸口になるような発信を続けていきます。
先生方、今日も本当にありがとうございます。どうかご自身のお体も、何よりも大切になさってくださいね。
萩原 達也(はぎわら たつや)
プロ野球審判員という極めて異色のキャリアから、教育業界最大手Benesse(ベネッセ)ホールディングスグループ企業へ。
厳格なジャッジが求められる現場から、日本の教育を牽引する巨大組織での実務へと身を転じた経験から、教育業界における広範な知見と深い洞察を培う。現在はIT企業に籍を置き、テクノロジーを軸とした教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に従事。
現場で磨いた独自の視点と、Benesseで得た教育の真髄、そしてITによる変革力を掛け合わせ、固定観念にとらわれない「教育界のアップデート」を提言する。
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