MichibiQ

【SPO-LOG導入事例】

「地域展開」の先にあるガバナンスとは。
柏市・KSCA代表が語る、
指導者育成と第三者データ活用の真意

全国で「部活動の地域展開(地域移行)」が本格化する中、ひときわ注目を集めている先進地域があります。千葉県柏市です。千葉県北西部に位置する柏市は、優れた都心アクセスと豊かな地域コミュニティが調和する中核都市です。全国に先駆けて市内全域での土日の部活動の地域展開を断行した、部活動地域展開のトップランナーとして多くの注目を集めています。

(画像:「柏市提供」)


その最前線を一手に担うのが、一般社団法人柏スポーツ文化推進協会(KSCA)。今回は代表理事の藤﨑 紀仁 氏をお招きし、教育メディア『MichibiQ』編集部がインタビューを行いました。

「形だけの移行」に終わらせず、不適切指導(スポハラ)を防ぎ、子どもの主体性を引き出す「本質的なガバナンス」とは何か。同団体が導入した部活動支援ソリューション「SPO-LOG(スポログ)」の活用実態と、地域スポーツの未来像に迫ります。

藤﨑 紀仁氏 
一般社団法人柏スポーツ文化推進協会(KSCA) 代表理事 
(株式会社オークスベストフィットネス 専務取締役) 

1979年生まれ、千葉県成田市出身。大学卒業後、フィットネス業界に飛び込み、現場実務から店舗マネジメントまでを幅広く経験。2013年に株式会社オークスベストフィットネスの役員へ就任し、既存事業の総括と新たな事業戦略の舵取りを担う。近年は千葉県をはじめとする部活動地域展開事業の受託運営を積極的に推進。KSCA代表理事として、現場の指導者保護と子どもたちの主体的成長を両立する地域部活動の先進モデル創出に挑んでいる。 

1. 柏市の一斉移行から見えてきた「地域展開におけるリアルな課題」

── 編集部(以下、編集部)
KSCA様は極めて早いタイミングで、市内全域の一斉移行を推進されました。その決断の背景からお聞かせください。

── 藤﨑 紀仁 氏(以下、藤﨑代表)
もともとKSCAを立ち上げた理由は、部活動の地域展開に専属的にアプローチするためです。少子化など様々な要因で、これまでの伝統ある学校部活動(スポーツ・文化・芸術活動)の存続が困難になりつつあるという背景がありました。子どもたちの人間形成において大切な成長環境を、何としても守り抜こうという強い思いが原点にあります。

柏市の一斉展開が実現したのは、市が早い段階で明確な方向性を示したことが非常に大きかったです。当時、自治体からは「不公平が生じないよう、全員が同じ形で一斉に進めてほしい」と求められ、全体で機能する算段を立てた上で一気に踏み切ることができました。

── 編集部
実際に運営してみて、どのような「課題」が見えてきましたか。

── 藤﨑代表
令和5年の開始以降、すでに50以上の自治体から視察をいただきました。ただ、これが本当に「成功」したかというと、運営側としてはまだまだその途上にあると感じています。

活動の置き場所を学校から地域に移したことだけをゴールとするなら、早い段階で実現できたため「達成」かもしれません。しかし、従来の部活動から地域クラブに移籍した生徒は約7〜8割です。つまり、10人中2〜3人の子どもたちは、環境の変化の中で活動を続けられなかったり、辞めてしまったりしたということです。

この子どもたちを救い切れなかった現実は、私たちが真摯に見つめ続けなければならない重い課題です。また、当時はまだ地域展開そのものへの理解が進んでいなかったため、「なぜこれが必要なのか」を地道に説明し、地域のご理解をいただくプロセスも本当に大変でした。


2. 地域から協力・信頼を得るために重要な「開かれた関係性」

── 編集部
部活動を外部団体へ移行しても、学校部活が抱えていた「顧問と子どもだけ」の密室が、「外部指導員と子どもたち」に変わるだけとの懸念があります。 また、指導者の「質のよさ」を謳う事業者や団体ほど、いざトラブルが発生した際、組織防衛のためにそれを「隠蔽」したり、該当指導者の契約を切る「トカゲのしっぽ切り」で幕引きを図るような構造的なリスクもあり得るとみてます。このようなリスクを防ぎ、開かれたガバナンスを構築するために、KSCA様ではどのような取り組みを行っていますか?

── 藤﨑代表
部活動と地域クラブという言葉の定義や位置づけは、認識が人によって様々で非常に難しい部分があります。そんな中、国が「認定クラブ」という形で、条件面や費用、活動領域などを少しずつ明文化し、ある程度定義づけてきたことは大きな一歩だと感じています。

ただ、実際の運営においては、行政とも連携する団体として、「透明性」が不可欠です。例えば、当団体では、お預かりした財源が何にどう使われているか、収支等を公開しています。

運営をオープンにし、周囲に理解をいただくこと。それこそが、持続的な活動を支える信頼の土台となります。周囲の企業や地域団体に中身を開示してご理解をいただくことで、初めて協力が得られるようになります。だからこそ私たちは、取り組みを開示し、協力し合える「開かれた関係性」を築いていきたいと考えています。まずはその視点でも細心の注意を払うことが、組織が歩む上で非常に大事なポイントでした。


3. 「不適切指導防止の徹底」。書面や研修といった「身内」管理の限界

── 編集部
組織の透明性があるからこそ、地域が協力者になり得るのですね。
一方で、国の認定要件に掲げられている不適切指導の防止の「徹底」についてですが、書面での誓約書締結や、年に数回の集合研修といった「身内」の対策だけでは、不適切指導を根本から徹底的に防ぐのには限界があるのではないでしょうか。

── 藤﨑代表
その通りです。運営団体として「こういう教育を受けてほしい」「このリスクを自覚してほしい」という発信は当然おこなっていきます。

しかし、実際にそれを受け取る指導員側が、どれほどの当事者意識やモチベーション、また「どういうリスクを抱えているか」という危機感を持って受け止めているかという内面までは、団体だけでは把握しきれないのが現実です。従来のやり方、見回りや研修だけでは、現場の最前線における意識の「徹底」という深い領域にまで落とし込むことは、非常に難しいと感じています。


4. 課題の不透明化や個人への責任転嫁を防ぐ、「専門的な第三者介入」

── 編集部
研修・契約に依存するだけでは、現場で起きる可能性のある不適切な指導の「隠蔽」や「責任転嫁」を構造的に防ぐのは難しいですよね。 最前線の指導現場を健全にアップデートするには、運営団体から独立した第三者視点をもって、客観的なデータからフィードバックする仕組みが必要ではないでしょうか。

── 藤﨑代表
はい、まさにそこが重要なポイントです。当団体でも昨年、御社(RUN.EDGE)にそうした取り組みの一部をお手伝いいただいた経緯があります。

現場の徹底を促すためには、専門性の高い気づきを与えてくれる『客観的な仕組み(フック)』が必要になります。自分たち身内だけでは客観的に評価することが難しいからこそ、専門分野において外部から気づかせてもらえる仕組み、その『育成年代に関わるプロ視点の専門性』こそが、SPO-LOGを導入する大きなメリットであり、介入していただく最大の良さではないかと思っています。


「SPO-LOG」とは?
【SPO-LOG(スポログ)】は、地域スポーツや学校部活動の現場における「不適切な指導」を未然に防ぎ、安心・安全な指導環境と指導員の成長をワンストップで支援するシステムです。

【サービス概要】
❶映像分析(定性評価)
指導風景を定期的に記録・プロのジュニアチーム育成に携わる専門家が映像で指導内容を分析し、指導者自身が気づけない「無意識下の言動」を可視化。

❷アンケート(定量評価)
生徒・保護者・指導員への定期的な匿名調査で、トラブルの予兆やハラスメントリスクを早期検知。

❸匿名相談窓口
24時間いつでも匿名で悩みを相談できる第三者窓口を設置し、生徒と指導員のメンタルを守る。

❹報告書作成・フィードバック(改善サイクル)
映像分析やアンケートから得られた客観的なデータをレポート化し、運営団体へ共有。具体的な改善ポイントをフィードバックすることで、指導の質を継続的にアップデートする。

映像分析プラットフォーム「RECOROKU」

フィードバックされる報告書(sample)


5. 尊厳を守るからこそ、指導員に「内省と成長」を促す仕組みへ

── 編集部
指導員の中には、映像撮影やアンケートに対して「監視されている」という抵抗や不安を抱く方もいるかと思います。指導員の尊厳を守りながら、これをどう成長へと結びつけていくべきでしょうか。

── 藤﨑代表
指導者の尊厳を守ることは極めて大事なポイントです。ただ一方で、自分の指導方法に「つい厳しくやりすぎてしまう」と自覚している方や、感情のコントロールがしきれない方にとっては、こうした取り組みが一時的に「監視されている」という印象を受ける側面はあるかもしれません。

しかし逆に、真摯に子どもたちと向き合っている指導員からすれば、これは指導を振り返り、自らを高めるための「成長の後押し(内省の機会)」として受け入れやすいものになります。

── 編集部
なるほど。「良い指導者ほど、自らの指導を振り返りアップデートできる」ということですね。その「内省の機会」として、今回のシステムや分析はどう機能していくのでしょうか。

── 藤﨑代表
「百聞は一見にしかず」ですが、自分を客観的・俯瞰的に見る機会は普段はなかなかないと思うんですよね。今までは漠然と行われてきた指導が、専門家の映像分析を介して数値やポイント映像で可視化される。

これは、指導員自身がコミュニケーションなどの定性的な課題に気づき、改善に結びつけるための非常に強い手応えを得られる取り組みです。単に不適切な指導を摘発するための「監視」などではなく、全員が「指導の質を高めるため」という同じ目的において、理解を深めてステップアップしていくきっかけにしていきたいですね。

── 編集部
以前の報告会で印象的だったのは、大きな移動式用具を運ぶシーンの映像でした。強風の中、一人の生徒が先に用具を動かしてしまい、指導者の死角で大きな事故になりかねない「ヒヤリハット」が発生していました。 指導者が後から映像を振り返って気づき、次の安全管理・指導に活かせる。このような「無意識下のリスクの可視化」こそが、単なる監視ではなく、指導現場を客観的に支える映像分析(SPO-LOG)の真の価値だと再認識しました。


6. 転ばぬ先の杖を外し、子どもたちが社会とつながる「ウェルビーイング」を築く

── 編集部
確かな「安心・安全」が担保されたその土台の上で、子どもたちにはどのような主体性やポジティブな変化が生まれていくと期待されていますか。

── 藤﨑代表
先日、あるスポーツ関係の講習で、「日本の子供たちは学校とのつながりが圧倒的に強い一方、地域社会とのつながりは先進国の中で最下位に近い」というデータをお聞きし、非常に深く共感しました。

これまで日本の教育は一斉一律の集団行動が中心でしたが、今、子どもたちの個性は多様化しています。これからは、子どもが無理やり既存の学校や集団に適応していくのではなく、個々の子どもに合わせて「社会の側が学びや活動の機会を保証していく」という姿勢が絶対に必要です。

地域クラブにおいては、子どもの主体性を尊重した環境づくりをして、地域の中に温かいコミュニティを生み出し、大勢の子どもを支援したいと考えています。安心・安全は当然一番大事なポイントですが、一方で大人が「転ばぬ先の杖」を持たせすぎてしまうと、子どもの主体性や「やりたい」という可能性の天井が破れません。

セーフティネットとしての安心をシステムで担保した上で、子どもたちの主体性を尊重し、可能性を引き出す。地域社会全体でそうした環境を厚く作っていくことが、今そこに存在する子どもの未来づくりに直結するのだと思っています。


7. 「教育的意義」を地域の土壌で耕し直す。全国のステークホルダーへの提言

── 編集部
全国で地域展開の推進や指導品質の担保に悩んでいる、自治体や教育委員会の皆様に向けてメッセージをお願いします。

── 藤﨑代表
地域クラブのあり方や仕組み、システムは全国で色々な方法があっていいと思います。自治体ごとに抱える悩みや資源もそれぞれ異なります。

大切なのは、部活動が持っていた「教育的意義」をそのまま失わせるのではなく、その地域の土壌に一度置き換えて、もう一回耕し直し、肥やし(肥料)を変えて、地域クラブという「新しい根の張り方」をさせ、大きな幹を育てていくという視点を持つことです。単に指導者をすげ替えたり、形だけの仕組みを作ればいいという話ではありません。一種の「街づくり」という広い視野が求められているのです。

そして、一緒になって大人もその環境を前向きに捉えて楽しむことが必要です。自治体、学校関係者、保護者、地域企業、指導者。みんなが同じベクトルを向いて、理解を一つにして巻き込んでいくこと。これが、最終的に極めて力強い推進力を生み出すのだと確信しています。


【編集後記】

全国の部活動地域展開のトップランナーである柏市・KSCA。藤﨑代表の言葉には、移行の完了という形式的な成果に甘んじることなく、その先にある「ガバナンスの質」へと注がれる真摯な視線がありました。

特に印象深かったのは、「部活動が持つ密室の性質が、地域展開によって単に形を変えて移動(再生産)しただけになってはならない」という私の問いへの深い共感です。事業者や運営団体が「当事者」である限り、指導者の「質」を謳えば謳うほど、不都合なハラスメントや事故などの不祥事に対して、組織防衛のバイアスから「隠蔽」や指導者への「責任転嫁」に走りやすいという構造的な課題があります。

だからこそ、お金の透明性だけでなく、指導現場そのものを「第三者の視点」に開き、客観的事実を可視化することが不可欠なのです。

客観的な「映像」と「アンケートデータ」、そして「匿名相談窓口」をワンストップで統括する「SPO-LOG」のような第三者システムを現場へ賢く介入させることは、事業者や団体の保身(隠蔽や責任転嫁)の余地を構造的に排除し、指導員の尊厳を守りながら、自発的な「気づきと指導改善」を促すための最も健全で温かいガバナンス手法なのです。

ルールを客観的かつ厳格に運用するからこそ、その安全な枠組みの中で、子どもたちの主体性が最大限に花開く

教育現場のDXやスポーツガバナンスのあり方に伴走する筆者にとっても、これからの部活動ガバナンスをアップデートする上での最も本質的な道標となるインタビューでした。

(取材・文/MichibiQ編集長 萩原)


萩原 達也(はぎわら たつや)

プロ野球審判員という極めて異色のキャリアから、教育業界最大手Benesse(ベネッセ)ホールディングスグループ企業へ。
厳格なジャッジが求められる現場から、日本の教育を牽引する巨大組織での実務へと身を転じた経験から、教育業界における広範な知見と深い洞察を培う。現在はIT企業に籍を置き、テクノロジーを軸とした教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に従事。
現場で磨いた独自の視点と、Benesseで得た教育の真髄、そしてITによる変革力を掛け合わせ、固定観念にとらわれない「教育界のアップデート」を提言する。