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教師の成長を支えるスキル論

第11回【理論】 
学校危機管理の対応に関する法的知識と対応スキル(後編1)
~個人と組織の利益の兼ね合いと危機介入のノウハウ~

学校危機管理の対応に関する法的知識と対応スキルを書いた前編では法律的な問題と主に教職員のメンタルケアの問題について論じました。後編では生徒たちのメンタルケアや生徒たちが事件に巻き込まれた時の対応について論じます。
 

という予定でしたが、〈3 生徒が事件に巻き込まれた時に使える社会的リソース〉が予定より長くなってしまいました。


やむなく、以下は次号(第12号(9/15(火)配信予定))で述べることにします。
〈4 校長先生からの依頼で上手く解決できた事例〉
申し訳ありません。よろしくお願いします。

〈1 教師の個人情報保護と組織的活動の矛盾への対処方法〉[前号で述べました]

〈2 生徒相談の秘密保持と情報共有~公務員の守秘義務で充分[前号で述べました]

〈3 生徒が事件に巻き込まれた時に使える社会的リソース〉[今号で述べます]

〈4 校長先生からの依頼で上手く解決できた事例〉[次号で述べます]

 

本号の詳細です。

〈3 生徒や保護者が事件?に巻き込まれた時に使える社会的リソース〉

1 実の親から暴行を受けた女子生徒(児童相談所)
2 犯罪を行った生徒をケアする施設(国立武蔵野学院、埼玉学園)

3「家庭訪問」ができるのは教員と保健所職員? 
4 総合力では最強の「男女共同参画センター」(※名称がバラバラ)
5とてつもない権限を持つ「人権擁護委員会」

1 実の親から暴行を受けた女子生徒(児童相談所)

私が相談係を担当していた時に、担任から受けた相談は学校だけで対応できる内容ではありませんでした。高校1年生の女子A子の担任B先生から私への電話があったのは、平日の20時ごろ。「小林さん、こんな時間にごめん。A子からの緊急電話なんだけど、どうすればいいかわからない。助けて欲しい」。「どうしたの?」「父親に襲われた、と言っている」「は?それで?」「着の身着のままで逃げ出したらしい」「おいおい‥それは警察案件かな?」「そんな気もする。父親のことは警察に通報するとしても、A子のことはどうすればいい?」‥

こんな時に頼りになるのが児童相談所です。埼玉県内には8カ所。そのうち一カ所は緊急避難的に宿泊も可能です。皆さんの地域の児童相談所の所在地を確認しておくことをお勧めします。

⑴児童相談所の窓口

➀一般的な相談は平日昼間(例08:30~17:15)のみの受付です。
お住いの地域の児童相談所はインターネットで調べるとすぐにわかります。

➁各県に一カ所は24時間対応し、宿泊施設を有する児童相談所があります。
これもインターネット検索でわかります。

➂緊急電話もあります。児童相談所緊急対応ダイヤル「189(いちはやく)」。
緊急時で、自分がいる地域がどこの児童相談所の管轄かわからない時には役立ちます。

⑵児童相談所が対応する子供の年齢

➀原則は18歳未満。0歳から17歳までとなっています。ただ、継続支援も行われているので、まずは相談することをお勧めします。

 

A子の事件の続きです。緊急避難的に宿泊施設のある児童相談所が近くにあったので、担任が連絡し、許可をもらいました。当時、宿泊施設を持っていた児童相談所はこの1カ所だけでした。それが近くにあったことはラッキーでした。

とは言え、児童相談所では長期宿泊はできません。そこで相談員と担任、そして本人を交えて話し合いを重ねて、離婚していた実の母親が引き取ってくれることになりました。一時的とは言え、宿泊施設を持つ児童相談所の存在は貴重です。

 

2 主に犯罪等に関わった子どもをケアする児童自立支援施設(国立武蔵野学院、埼玉学園等)

歴史的には「感化院」としてスタートし、その後「少年教護院」となり、戦後は「教護院」となり、更に「児童自立支援施設」(平成10年)と改められました。歴史等の詳細を述べる余裕がないので興味のある方は検索してお調べください。


要するに犯罪等に関わった子どもたちを育てる組織です。内訳は、国立2、都道府県立50、市立4、私立(社会福祉法人立)2があります。明治33年の「感化法」による感化院としてスタートし、その後「少年教護院」となり、戦後は児童福祉法(昭和23年)による児童福祉施設の1つとしてその名も「教護院」となり、更に「児童自立支援施設」(平成10年)と改められました。


 

私が居住する埼玉県には国立の「国立武蔵野学院」と県立の「埼玉県立埼玉学園」の2つがあります。私は仕事上の関わりで、上記2つの施設には何度も見学に行き、お話を伺ってきました。詳しく述べることは差し控えますが、辛い生活をしてきた子供たちが、実に温かい環境で過ごしています。「国立武蔵野学院」には塀も正門の扉も鍵もありません。24時間出入り自由です。でも逃げ出す子供はほぼ皆無。この環境の中で入ってきた当初は険しい目つきをしていた子供たちがどんどん穏やかになっていくとのこと。素晴らしい仕組みがあると感動しました。  

 

3「家庭訪問」ができるのは教員と保健所職員? 

昔、センパイ教員から「家庭訪問ができるのは学校の先生と保健所だけだよ」と教わった記憶があるのですが、これは正確ではありませんでした。実際には、市町村(保健センター)、児童相談所、児童家庭支援センター、民生委員など、複数の行政機関がそれぞれの法律(地域保健法・児童福祉法・母子保健法など)に基づいて家庭訪問を行うことができる仕組みになっています。

とはいえ、教師の家庭訪問には他の行政機関の家庭訪問にはないメリットがあります。

①児童生徒と保護者が「日常の延長」として受け止めやすい。

②学校での関係性を活用できる(知っている先生、担任の先生等)。

③「学校に戻る」というゴールが明確。
(知らないところに連れていかれるのは子どもにとって大きな不安)。

④家庭の「教育的課題」を最も正確に把握できる。

⑤保護者が受け入れやすい(「学校の先生・担任が来る」のは「相談しやすい」
「心理的抵抗が少ない」「生活に介入される感じが少ない」)。

これらのメリットを活用して「家庭訪問」を上手くやりたいのものです。更に私や同僚の失敗などを踏まえて以下のアドバイスを付加します。

⒜必ず、事前に上司・管理職に許可を取る。

当たり前のことだと思うのですが、知らない若い先生がたまにいます。

⒝夕飯時や支度時間に行かない。

とはいえ各家庭のことはわからないので、電話で「〇時ごろ伺っても良いです
か?」と確認をとる。

⒞基本的には玄関先の立ち話程度にする。やむなく上がって話すときは短時間にする。  

行く前に「10分間で終わります」などと確認して、時間厳守する。

⒟母子家庭のお宅には男性教員は暗くなってからは行かない。

「近所の目が気になる」と相談を受けたことがあります。

⒠案外喜ばれた「小さなおみやげ」。

家庭訪問をしても生徒に会えないこともあります。家にいても出てこないこともあります。そんな時に、「小さなおみやげ」を持っていくことをしていました。周囲の担任の皆さんにも推奨していました。おみやげの中身は「学年通信」「クラスだより」「教科で配布されたプリント」「学校行事等の案内」などです。

呼び鈴をならしても応答がない時は、郵便受けに、名刺にひと言書いて、「おみやげ」と一緒に入れて帰ります。

「先生が帰ったのを確かめてから、子供は郵便受けのプリントを毎回読んでいました」などと教えてもらったこともしばしばでした。お試しください。

 

4 総合力では最強の「男女共同参画センター」(※名称がバラバラ)

⑴2016年(平成28年)に出た「男女共同参画センターの機能を担う体制の確保」
https://www.gender.go.jp/policy/chihou_renkei/joho/pdf/kaigi/r08/04.pdf?utm_source=copilot.com

によると、その緻密な体制はますます強化されています。これを学校が使わないのはもったいない。ぜひとも活用していただきたいものです。

 

⑵小林が驚いた「男女共同参画センター」の威力

私の経験ではこんなことがありました。1年生男子が突然不登校。本人との面談、家庭訪問、保護者との面談を繰り返しても原因不明。こうなると「誰に相談してよいかもわからない」状態です。悩んでいる時に埼玉県さいたま市新都心の「With You さいたま」が会場の研修会講師に呼ばれました。そこに行き「この組織っていったい何?」と窓口で質問。私が研修会講師だったからか、とてもて丁寧な説明をしていただきました。


そこで懸案の事例を出して、「こんなことで今、困っているのだけど、このセンターなら対応できそうですか?」と質問。すると「もちろんです」と即答。説明によると、私の勤務校の近くにセンターがありました。名称は「ほっと越谷」。
 「この名前じゃ、わかりにくいですよね(笑)」と軽くクレーム。「そうなんですよね~。私たちも困っているのですよ~(笑)」と大笑い。

ここに相談して「1年生男子の問題」は一気に解決に向かいました。カウンセラー、弁護士、警察、その他の関連部署を一気にまとめてくれました。詳細は伏せますが、一人の教員では何もできない「事件」でした。

数か月たって、様々な問題がほぼ解決してから、その生徒と母親が来校してくれました。その時私はこの男子生徒の笑顔を初めて見ました。痩せていた身体も少し筋肉がついたのか逞しくなった気がしました。そして、母親の声が大きくなって、笑顔が増えました。

それらは、うれしいことなのですが、あの時、このセンターの事を知っていれば、問題は早く解決したのに‥と悔やみました。本当に凄い組織です。ぜひぜひ、皆さんの地元のどこにあるかを確かめておいてください。管理職や生徒指導部主任の方には、一度訪問して名刺交換をしておくことをお勧めします。

 

⑶まだ残る名称不統一問題

「男女共同参画センター」としても、この件については、問題視されているようです。
ざっと見ても以下のように名称はバラバラです。


男女共同参画センター、女性センター、ジェンダー平等センター、
男女平等参画センター、女性総合センター、男女共同参画推進室(施設ではなく部署名)、市民活動センター内の一部機能として存在、こども未来センター内の一部機能として存在。

AIに「見つけ方は?」と質問すると次の検索方法を提示してくれました。ご参考に。

※センターの名称は地域によって「男女共同参画センター」「女性センター」「ジェンダー平等センター」などバラバラです。


検索する際は「自治体名+男女共同参画」「自治体名+女性センター」「自治体名+ジェンダー」など複数の語を組み合わせると確実に見つかります。

 

5 とてつもない権限を持つ「弁護士会の人権擁護委員会」

母子家庭の母親である知人の女性から受けた相談は深刻かつ緊急の事件でした。お子さんは小学校2年生。4月に担任の男性教諭に叩かれたと言ってきたので、すぐに学校に連絡。即座に校長と担任が謝罪。1件落着と思っていたら、6月に入浴時に母親が子どもの背中や腹にある痣を発見。問い質すと、担任の先生がやったとのこと。「叩いた」ことが発覚した後、外見からは見えない個所に「叩いたり抓(つね)ったりしていた」いたようです。

学校を信用できなくなった母親は私に電話。警察を考えましたがもっと極めて緊急かつ重大な事件のような気がしました。そこで、知り合いの弁護士に電話。弁護士は激怒。「人権擁護委員会に報告書を出してもらえ」との指示。その通りにすると、委員会で審議し、緊急事例として受理したと連絡がありました。その旨を母親に連絡した翌日、「今日学校に人権委員会の人が来たそうです」と電話がありました。


後で弁護士さんに聞いたところ、「人権委員会が調査に行くから校長と担任を待機させよ」という「命令」は絶対的とのこと。校長会への出席や、教師の出張等より優先するとのことでした。校長と教諭は別々に審査を受けて終了。母親からの更に翌日の電話では、「学校に行ってきました。校長の謝罪がありました。担任は辞表を出したそうです」とのこと。

各都道府県の弁護士会の中に「人権擁護委員会(または人権委員会)」は設置されています。詳細は電話でお問い合わせください。

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小林昭文(こばやし あきふみ)

埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人