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小林昭文先生Q&Aシリーズ

第8回【Q&A】 「ファシリテーションとは何か?」

~ファシリテーションで本当に授業の質は向上するの?~

最近立て続けに「ファシリテーション」について質問をいただきました。その結果、ファシリテーションに対して、かなり誤解が広がっている気がしてきました。結論から言えば「ファシリテーション」で「成績が向上する」とは言えません。「居眠りもなく」「成績も向上する」授業を実現するためには、「ティーチング」「トレーニング」等のスキルと共に、「適切なファシリテーション」を組み込むことが不可欠です。

具体的な授業方法については末尾に詳述します。まずは以下の順に「ファシリテーション」の定義・歴史を簡潔に述べたうえで、教科授業への正しい組み込み方を詳述します。

〈1  ファシリテーションの語源は中学理科に出てくる「触媒」の働き〉

〈2  グループ・ファシリテーションの開発はカール・ロジャーズと国分康孝〉

〈3  資料を調べると気になる「教科授業におけるプロセス重視&コンテンツ軽視」〉

〈4  ティーチングやファシリテーション等を組み合わせた小林の物理授業の構造と成果〉

〈5  教科授業も探究学習もファシリテーションとティーチング等の組み合わせ〉

 

〈1  ファシリテーションの語源は中学理科に出てくる「触媒」の働き〉

まずはファシリテーションの語源です。AIが「触媒」ついて作成した図に小林が補足したのが「図1」です。ご覧いただけばおわりいただけると思います。

要するに、二酸化マンガンが化学変化を促進しているということです。このように「自分自身は変化しないが、他の物質の化学変化を促進する働きをする物質」を「触媒」といいます。この「促進すること=facilitation」が「ファシリテーション」の語源です。

〈2  グループ・ファシリテーションの開発はカール・ロジャーズと国分康孝〉

この科学用語を教育の分野に持ち込んだのは、「来談者中心主義のカウンセリング」で有名なカール・ロジャーズ(1902-1987,アメリカ合衆国)です。彼が発明した「非構成的エンカウンターグループ」は「20世紀最大の発明」と絶賛されました。

私は、この分野では国内トップの保坂亨先生(千葉大学名誉教授)の指導を、2000年代に数年間継続的に参加して学びました。保坂先生は4~5日間の宿泊研修の中で、1度も講義(=ティーチング)をしません。個別のカウンセリングもしません。みんなが話すのをほとんど黙って聞き、時々質問する程度です。しかし、徐々に場の雰囲気が変わり、安心の場が広がり、深い自己理解・他者理解が進みます。

その結果として「合宿後に退職を決意して参加した人」が『希望が見えた。頑張ります』と決意表明をして、みんなが感動するというような場面がしばしば出現しました。

この「非構成的エンカウンターグループ」を比較的手軽に、学校教育で使えるようにしようとしたのが國分康孝先生(1930-2018心理学者、東京成徳大学名誉教授)の「構成的グループエンカウンター」です。この方法の特長は、短い「エクササイズ」と呼ばれるグルプワークをたくさん用意してあり、クラスやグループのニーズや時間に合わせて組み合わせることができることです。ここでもファシリテーション・スキルは多用されます。


私は國分先生にもかなり教えてもらいましたが、もっとも深く教えていただいたのは片野智治先生(元武南高校教諭、元跡見学園女子大学教授)でした。ある研究会の場で、「教育相談を相談室で使うだけではダメだ。教科授業に使えなくては意味がない」と言われたことが衝撃でした。これが後に斬新な高校物理授業にチャレンジした原動力の1つです。

このような動きがあり、やがてコーチングが流行り、アクティブラーニングが流行り‥という流れの中で「コンテンツ(学ぶ内容)」より「プロセス(学び方・学ばせ方)」が重視されてきた気がします。

 

〈3  資料を調べると気になる「教科授業におけるプロセス重視&コンテンツ軽視」〉

NITS(独立行政法人教育支援機構)の資料をとりあげます。ある講義動画を視ても、左図のように教科授業に活用するファシリテーションのことが取り上げられています。その内容はファシリテーションの様々な方法が紹介され、実践後の「グループワークのやり方(プロセス)の見直し」も丁寧です。

とても気になるのは「プロセスだけ」しか振り返っていない事です。普通なら教科授業の良し悪しは「理解度」で計ります。「確認テスト」等をやって、その得点分布を調べます。この研究ではその調査はしていないように見えます。これでは次の批判に答えられません。


ある先生の言です。「ファシリ、ファシリと言うけど、それで大学入試問題を解く力はつくの?生徒たちを楽しませることが授業じゃないと思うよ‥」。その通りです。ここに過度なプロセス重視と、結果的に「コンテンツ軽視」が生じている気がします。

「教えること(ティーチング)」を軽視して「ファシリテーション」を過度に重視すると成績が低下する可能性が大きくなります。そうすれば生徒の学習意欲も低下します。「コンテンツ」を軽視してはいけないのです。私は「コンテンツを重視して」、「居眠り皆無」「成績向上」「選択者数倍増」「進度向上」を実現しました。「成績向上」のためにティーチング、グループワーク、ファシリテーション、リフレクション等を巧みに組み合わせた結果なのです。その具体的な方法を次節で述べます。

〈4  ティーチングやファシリテーション等を組み合わせた小林の物理授業の構造と成果〉

2007年、定年退職間際に転勤した勤務校の物理は「成績低下」「選択者数激減」「理系進学者数激減」が長年続いていました。

これは、まさに「コンテンツの問題」でした。そこで私は、65分間の授業を「①15分間の説明(ティーチング)」「②35分間の問題演習(おしゃべり・立ち歩き自由のグループワーク=ファシリテーション)」「③15分間の振り返り(確認テスト・相互採点〔全員満点〕・リフレクションカード記入=リフレクションの促進=ファシリテーション)」で構成しました。その結果、初年度から「進度向上」「居眠り皆無」「成績向上」「選択者数倍増」「理系進学者数増加」等の成果を、定年退職までの6年間、継続できました。


この時、最も重視していたのは「コンテンツ」です。「確認テストで全員100点」というコンテンツ目標を達成するために私は「プロセスを設計し」、段階に応じて「ティーチャーになったり、ファシリテーターになったりしていた」のです。以下、その詳細を述べます。

 

「➀内容目標・態度目標の提示(ビジョンを示す)

私はチャイム前に物理室に入室。生徒たちが入室した時にはプロジェクターで「態度目標と内容目標」が表示されています。「態度目標(=プロセスの目標)」は「しゃべる・質問する・教える・動く(席を立って立ち歩く)・チームで協力する・チームに貢献する」です。「内容目標」はその日の教科書の学習内容・目標を提示。要するにコンテンツを達成するためのプロセスの目標を提示していたということです。ティーチャーとファシリテーターの役割を同時に表明していたことになります。

「➁15分間の説明(ティーチング)」~ティーチャーとしての質の向上

「聴いただけでは物理はわからない」「問題を解いてわかる」と捉えていた私は、説明は短時間に、問題を解く時間は長く、とることにしました。そのために以下の工夫をしました。

⒜説明時には板書しない。

~「先生たちが黒板に書いている時に僕たちのアタマは止まる」と名言を残した生徒がいました。彼らのアタマを止めないために、pptとプロジェクターを使って説明しました。

⒝生徒にノートをさせない。(写させない&自分で考えて書く)

~「板書をノートに写す」と「自分で考えて答案を書く」はアタマの働きは段違いです。また、生徒が写す時間が長いと説明時間が減ります。そこで板書内容(pptスライド)は印刷して配布しました。生徒たちはあわてて考えもせずに板書を写すことから解放されます。こうして生じた時間で練習問題と確認テストをじっくり書かせることができました。高2高3の2年間で彼らは約1,000題の答案を「自分で考えて書いて」いました。この量の積み重ねを授業時間内でできたから、宿題なし、補習なしで成績向上を実現できました。

⒞教師はコンパクトで論理的な説明をする。

~生徒の活動時間を増やすために私の説明時間も短縮しました。以下を意識していました。

(ⅰ)論理的に話す。「本質-構造-具体」の論理構造を意識して説明をする。

(ⅱ)繰り返さない。繰り返してもこの時点では「わからない生徒はわからない」。

(ⅲ)「えー、あー」は絶対言わない。ジョークや思い付きの昔話や自慢話も絶対にしない。しかし、笑顔で説明する。これにより生徒の集中力は格段に向上しました。

疑問をたくさん抱えた生徒は次のグループワークに入るや否や友達に質問します。それに同調する生徒、解説しようとする生徒のおかげで、次のグループワークはすぐに活性化します。疑問や違和感が多いほどグループワークは活性化します。

この短時間・高密度説明はなかなかのスキルが必要でした。4月当初は放課後、物理室を締め切り、カーテンを閉め、ストップウォッチを持って何度も練習しました。これで私の説明力・文章力も向上しました。このあたりはティーチャーとしてのスキルを磨き抜いていたことになります。皆さんはストップウォッチを持って授業していますか?

 

「➂35分間の問題演習(グループワークの促進~ファシリテーターとしての活動)」

⒟練習問題を解きながら生徒たちは理解する。

~次の35分間の問題演習が最重要でした。「練習問題プリント」と「その略解(=問題集付随の略解)」を印刷して配布してあります。練習問題は4題。1番から4番までの難易度を変えました。1番は成績下位の何人かを想定。彼らでも略解と教科書をみれば解けそうな問題。2番3番と難易度を漸進(ぜんしん)。4番は成績上位の何人かを想定し、彼らでも手こずりそうな問題。上位層はどんどん進みます。下位の生徒はあちこちでひっかかります。

ここで35分間の制限時間が威力を発揮し、生徒たちが話し合い、立ち歩きます。尚、「答案の書き方」をうるさく言いました。「きれいな字・きれいな図を書きなさい。誰が見てもあなたの思考過程がわかるように書きなさい」と繰り返して言っていました。定期テストの採点基準も「思考過程が書いてない答案は、最終の答えが正しくても零点」にしていました。

面白いことに見学に来た外来の先生たちは「なぜ、全員がこんなにきれいな答案を書けるのですか?小林さんが全員の答案を添削しているのですか?」と驚きました。そんなことはしていません。常に友達同士の答案を見せ合っていると、相互浸透して良い方向に変化していくのです。美術の先生が「俺の授業で起きている事と同じだな」と教えてくれました。実技系の授業から学ぶことも多いものです。

尚、このプロセスが最近は「タブレットで読む・書く」に移行していることが気になります。「紙で読む」「紙に鉛筆で書く」方が思考力は向上します。

⒠「おしゃべり、立ち歩き自由」の問題演習

~わからない生徒は友達に質問します。誰かが教え始めると他の生徒も聞きに集まります。

グループ内でわかる生徒がいなければ教えてくれる友達を探して歩き回ります。「確認テスト開始」の時刻は「絶対に変更しない」ので、終わりに近づくと生徒たちは活発に動き、大きな声で話し合います。生徒たちが最も集中し活性化して学ぶ時間です。 

⒡問題演習中の小林の役割はティーチャーからファシリテーターへ移行

~この問題演習中の私は、その前の「ティーチャー」から「学びを促進する人=ファシリテーター」に変身。指示・批判・教授ではなく「質問中心」の介入を心がけていました。

「チームで協力できていますか?」「質問したり教えたりできていますか?」と「質問で介入する」ことを繰り返していました。保坂先生や片野先生のスキルをモデルにしていました。この役割変更が大事です。


「➃15分間の振り返り(確認テスト、相互採点、リフレクションカード記入)」

⒢「確認テスト」と「交換して相互採点」はファシリテーションを継続

~「確認テスト」は4題の練習問題のダイジェスト問題を2題出題しました。要するに同じ問題です。書き終えたら、隣近所の友達同士で交換して採点。採点のルールは以下です。

①正しい答案には丸をつける。

②間違いに気がついたら「赤で直してあげて」丸をつける。

③結果、全部丸になるので「100点」と「花丸」を付けて返却する。

つまり全員に「100点満点の採点済み答案」が戻ります。しかし、一部に赤で書き込みがあれば「間違えたところ」です。零点や低い点数なら見直す気にもなりません。すぐにバッグに入れたくなります。私の授業ではそれは絶対に起きません。友達の書き込みを読み、「ああ、そうだったんだ。わかった」とコンテンツに対する誤解を修正できます。

これは「安全安心の場をつくり」、「自己開示を促進」していた事になります。これもファシリテーションてです。

 

〈5  教科授業も探究学習もファシリテーションとティーチング等の組み合わせ〉

私がやったことは、➀ティーチング、②ファシリテーション、③リフレクションの全部を「点数を上げるために」「理解を深めるために」改善したことです。「人間関係が向上します」が、それが目標ではありません。「物理内容を理解し、問題を解けるようにすること」が目標です。しつこいですが〈コンテンツ重視〉なのです。並行して当時の「物理Ⅰ」「物理Ⅱ」の教科書の全ページを「正規授業時間だけで」、終わらせることも実現しました。補習も宿題も「なし」で、3年生は毎年11月の第1週には教科書を終了していました。

私が特に皆さんにお伝えしたいのは「生徒たちは教科科目の内容(コンテンツ)がわかるとうれしい」ということです。途中での先生のジョークよりも、「わかった」の方がうれしいのです。ここを回避して「内容はわからなかったけど、先生のジョークは楽しかった」「友達とワイワイやれたのは楽しかった」とお茶を濁すのは本末転倒です。


 「勤務校は偏差値が低い。生徒が馬鹿だから無理」と諦めないでください。私の初任校は偏差値30?の県内最底辺校。そこでも「居眠り皆無」の授業は実現できました。

そして声を大にして言いたいのは「ファシリテーション」も「ティーチング」もどちらもうまくできる教師になっていただきたいという事です。この視点に立てば、教科授業も探究活動の指導もうまくできます。これができることが、これからの教師に求められる専門性です。皆さんのご活躍を祈ります。ご質問、大歓迎です。

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小林昭文(こばやし あきふみ)

埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人