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教師の成長を支えるスキル論

第12回【理論】 
学校危機管理の対応に関する法的知識と対応スキル
~実際に遭遇して解決できた危機介入事例~

連載の1回で終わらせる予定の原稿が4回に延びてしまいました。お詫び申し上げます。今回は私が現役高校教師で、「埼玉県高等学校教育研究会事務局長」を務めていた時に、主に県内の校長先生方からのご相談に対応して、危機に対応できた事例を述べます。どの事例も最初にお話を伺ったときには「そんなことが起きることがあるのか?」「どうすればいいんだ?」と慌てた事例ばかりです。

管理職の皆さんだけではなく、現場にいる担任や教科担当の先生たちがこの種の困りごとに遭遇することは「ない」とは言えないと思います。皆さんが、似たような事例に遭遇した時のヒントにしてください。

 

〈1 教師の個人情報保護と組織的活動の矛盾への対処方法〉[前々回第10回で述べました]

〈2 生徒相談の秘密保持と情報共有~公務員の守秘義務で充分〉[同上]

〈3 生徒が事件に巻き込まれた時に使える社会的リソース〉[前回第11回で述べました]

〈4 校長先生からの依頼で上手く解決できた事例〉[本号で述べます]

本号の詳細です。

〈4 校長先生からの依頼で上手く解決できた事例〉

1 前提としての小林の活動実績
2 女性教諭に対する脅迫メール
3 授業中に奇妙な行動する教師を生徒たちが怖がる 

4 校内でのセクハラ事件対応のフォローアップ 
5 統合失調症が疑われる教師を病院にどうつなぐか?
6 終わりに

1 前提としての小林の活動実績

この後を述べる前に、なぜ私が全県の校長先生たちに信頼されて、気軽に電話をいただける立場になっていたかについて簡単に紹介しておきます。


➀「荒れる高校の立て直し」と「教育相談体制確立」の実績
私は元空手家で、35歳で高校教師になりました。「元空手家」が買われたのか、県内有数の「荒れる高校」に赴任し、当たり前のように生徒指導部に配置されました。しかし、皆さんの「凄腕を振るう空手家の期待」はあっさり裏切られてしまいます。怒鳴ることも殴ることもせず、むしろ、カウンセリングの学習に力を注ぎました。担任としては初めての1年生の担任では48名の新入生のうち進級できたのは38名。私は大ショック。でも、同学年の他の9クラスの中では平均値でした。その後持ち上がった2,3年生担任では退学者ゼロ。生徒指導部主任退任後の3年間の担任での退学者ゼロでした。

1度目の担任が卒業生を出して終わったところで生徒指導部主任に就任。校長が学校警察連絡協議会の会長だったので、私は事務局長を担当。「荒れる高校」で警察との連携も不可欠だったので、週に1度は地元警察署に行って情報交換をしていました。この時期に「非暴力的・科学的指導法」を標榜して、力づくではなく、腕力に自信のない先生や女性の先生も含めて「みんなでできる生徒指導」を目指しました。結果として「校内喫煙防止(生徒の‥です)」「違反服装皆無」などの実践をあげました。

この成果を土台に生徒指導部主任を降りた後に「制服改定委員長」を務め、TV番組が「全国ベスト5」に選定してくれた制服を製作しました。更に、「悪さをした生徒を閉じ込めるお説教部屋」と化していた「生徒相談室」を床を張り直し、壁を塗り直して、綺麗な「相談室」にリニューアル。「荒れる高校」は少しずつ落ち着き、中学生からの人気も上がり、一時期は入学生の半数以上が女子という変化が起きました。

➁教育相談の実績と経験
2校目以降ではほとんど「生徒指導部・教育相談係」を務めました。その実績を買われて埼玉県高等学校教育相談研究会事務局長を7年間務めました。この事務局長の立場にいたので、理事の校長先生たちとはしばしば情報交換をしていましたし、現場の困りごとを伺い、一緒に考えたり、精神科医・カウンセラー・警察の信頼できる部署の紹介などもしていました。これらの経験が、以下の事例の土台になっています。

 

2 女性教諭に対する脅迫メール

ある高校から「新卒・新任の女性教諭に脅迫メールが継続している」との相談がありました。その日の服装などを熟知していることから犯人は校内の「生徒若しくは教員」だろうと推察されます。これは頭の痛い問題です。偶々、その学校と私の勤務校は同一警察署の管轄だったので、生活安全課、及びサイバー犯罪担当と相談することになりました。

相手が生徒か教諭かで扱いが全く異なります。生徒なら「説諭」乃至「家庭謹慎」で済ますことも可能な範囲ですが、教諭であれば「懲戒免職」の対象になりかねません。警察・高校・校長・被害教諭を交えて話し合います。警察からの提案は「メールしましょうか?」でした。
サイバー犯罪担当が「その気になれば本人特定は簡単」です。そのことを伝えたうえで、自分から名乗り出れば「大事にはしない」とメールしましょうという提案です。これで生徒なら穏便に。教師なら犯罪として措置するということです。校長先生とも話し合って、警察からメール。名乗り出たのは男子生徒でした。女性教諭からの申し出からここまで3日間。

教員だけで捜査していたのでは、こうはうまく行きませんでした。校長先生の判断で厳重注意。職員会議には事件の概要は報告したものの、被害教諭・加害生徒の氏名は非公表。校長先生の判断もお見事でした。

 

3 授業中に奇妙な行動する教師を生徒たちが怖がる

教育相談研究会の理事会等で何回かお会いした校長先生からの電話から始まりました。「教師の奇妙な行動で生徒たちに不安が広がっている。迅速に穏便に解決したい。どうすればいい?」との内容です。その「奇妙な行動」の概要は以下です。

真面目な社会科の先生。いつも板書はきっちり。これは今まで通り。ところが、黒板一杯に板書した後は、全部消して、その先の説明に行くはず‥‥なのですが、「板書内容も説明内容も〈さっきと同一〉だと言うんだよ」と校長。「それで生徒が気味悪がって、相談に来た。

一応、あちこちに言わないように口止めはしたものの、それほど長くは秘密にできない。何とか騒ぎにならないうちに、穏便に済ませたい」とのことです。
これは私の知識の範疇にはない事例でした。早速、精神科医とカウンセラーに電話。2人とも「アルツハイマー型認知症の可能性が高い」との判断。

当時、読んだばかりの「白秋(はくしゅう)のとき(夏樹静子/新潮文庫)」を思い出して驚きました。本人に自覚が全くない、ことも小説通りでした。

問題は自覚のない人を精神科に行かせることの難しさです。普通は「行きません」。下手をすれば怒り出します。校長先生は「私がやります。彼と私は同年代で長い付き合い。私がいう事なら聞いてくれると思います」とのこと。この覚悟に感動。その覚悟が通じたのかその先生はすぐに通院。即座にアルツハイマーの診断が出て休職。噂話が広がることもなかったようです。

 

4 校内でのセクハラ事件対応のフォローアップ 

これも校長先生からの電話。「定年間際の男性教諭が年下の女性教諭に付きまとっている。校内でつきまとうだけでなく、女性教諭の自宅付近まで付きまとい始めたらしい。校内での付きまといの報告を受けて、私が厳重注意をしたのだけど、全然効き目がなかった。どうすればいいだろうか?」。

これは私には解決策がありました。その少し前に、学生時代の友人から「娘が男に付きまとわれている」と電話がありました。直接会って注意もしたらしいのですが、全然効き目がないとのこと。彼はおっとりしているので、あまり深刻さが伝わらなかったのかなと思いました。偶々、翌日、彼の自宅に近い地域への出張だったので「じゃあ俺が、お前の家の近くの警察署に依頼してみるよ」と返事。翌日、出張の帰りに行きました。


すると、意外なことに、友人が話していた通りに「のんびりした対応」。
さすがに私も腹が立ちました。
そこで知り合いの弁護士に教えてもらっていた、切り札を出しました。
それは「〈監察官室〉に電話します!」。

これは効きました。態度が一変。話を聴いてもらうことになりました。

夜になって、その友人から電話。

「小林、ありがとう。警察の迅速な対応に驚いているよ」。

「なにか動きがあったの?」

「あったあった。夕方電話が来て、そのあと警察が来た。
詳細な事情聴取と共に、家の周りに監視カメラを何台も設置して帰った。
法律的な手続きも説明してくれた。明日には加害男性のところに警察が行くらしい」

ということで、一件落着したことがありました。

 

これを思い出しながら校長先生に「ストーカー規制法の適用依頼を警察にしてください」と返事。翌々日に校長先生から電話。

「いや~、感謝感謝。あの電話を切ってすぐに所轄警察署に電話した。
翌日、すぐに来てくれた。加害教師の前で
『今後同様な行為があった場合には、被害者に代わって警察が告訴します』云々と
警告書を読み上げた。彼は青ざめていたよ。

翌日も今日も、全く近づかなかったと被害女性教諭からの報告を受けたところです。
ありがとうございます。彼もこれで退職金をふいにしなくてすんだよ」。

 

5 統合失調症が疑われる教師を病院にどうつなぐか?

次の事例はある高校の養護教諭(保健室の先生)が見つけて校長に報告し、校長からの依頼を通して、その養護教諭から詳細を聞いたことから始まりました。


該当するA先生は40歳半ば。保健室に来る生徒たちが「A先生はなんだか変」「A先生、こわい」と言い始めたとのこと。例えば、「今学校の周りをパトカーが回っているから気を付けろ」「交通事故が起きて、救急車とパトカーがくるぞ」などと言うらしいのですが、事実はない。そんなことを生徒たちが養護教諭にしばしば言いに来るので、気になったということでした。校長先生としては、現状大きな問題はないものの、うわさが広がると教育活動にも支障が出てくる可能性もある。それで「小林さんに、電話しろと言われて電話しています」とのことでした。

色々聞いてみたところ、基本的には真面目な先生。生徒をからかうような人でもない、とのこと。「パトカーがきたことはない、というのは確認したの?」「警察署に電話して、生徒が言ってきた日付と照合してもらいましたが、一致しませんでした」。

悪ふざけでないなら、妄想を想定します。うつ病か統合失調症の可能性があります。しかし、タイプとしてはうつ病は想定しにくいタイプの先生のようです。統合失調症だとすると、発症年齢の上限を超えているような気がします。素人考えでは推定できません。臨床心理士に電話します。

「症状としては統合失調症の可能性はあるね。まずは精神科を受診してもらおう」

「え、でも、本人には自覚がないんだよ。行けと校長が言えば、それこそ大問題だよ」

「確かに。でも手がないわけでもない。その先生は結婚している?」


「うん、既婚。お子さんもいる」


「奥さんは仕事しているの?」


「詳しいことは知らないけど、それほど時間制限の強い仕事ではなさそうだった」

「それなら、奥さんに一芝居うってもらおう」

「は?」

その作戦はこうでした。

➀奥さんが最近精神的に辛い。眠れない。だから、病院に行くとご主人に言う。


➁ご主人は反対はしないだろう。そこでもう一押し。
「不安だから、一緒に来て」と依頼する。

ここまで聞いて私は反論。「奥さんが診断してもらっても意味ないじゃん」。

➂まあまあ。大事なのはこれから。‥と臨床心理士の説明は続きます。

「普通は診察室の前で呼び出しを待つ。

診察室に入る時も、ご主人には診察室前の椅子で待っていてもらう」で、診察室で医師と対面したら、『心配なのは私ではなく主人です』と言う。すると、医師はご主人を呼び出す。奥さんは診察室前で待つ。

これで、ご主人は診察を受ける。医師が見ればすぐに統合失調症だとわかる。 ここで、ご主人は「患者」になり、「診断書」も出る。この診断書が出れば「病気休暇」を取ることができる。

そんなにうまく行くのかい?と半信半疑で奥様に依頼。あっさりOK。結果は臨床心理士の作戦通り。見事に診断書が出て、大事になる前に「病気休暇」に入りました。

ひとつ疑問だったのが、発症年齢を超えていたこと。臨床心理士によれば、「たぶん30代から発症していた。ただ、症状が弱くて、徐々に進行したので本人も周囲もわからなかったのだろうと思う」との解説でした。

 

6 終わりに

以上で「学校危機管理の対応に関する法的知識と対応スキル」の第4回を修了します。色々なことを知っておいた方が良いのは、その通りなのですが、「全部を一人でやる実力」を身に付ける必要はないと思います。

私は今では色々な知識やスキルを身に付けましたが、元々は物理学科卒業。心理学やカウンセリングは全くの門外漢でした。教職についていると、知らないことにぶつかります。その都度、逃げ回らないで、周囲と協力し、専門家に頼り、質問していけばよいことです。肝心なことは「逃げ出さないこと」と、「色々な窓口や色々な専門家に尋ねること」です。

私は本当にあちこちに泣きつき、質問し、相談して、アドバイスをもらい続けて仕事をしてきました。その中で、拒否された記憶はほとんどありません。


どこに行っても「学校の先生はそんなことまでするのですね。大変ですね。わかりましたできるだけ素人の方にもわかるように説明しますね。実践してわからなくなったら、遠慮なく電話してくださいね」と言われ続けました。これは、教職の強みだと思っています。

ぜひ、わからないことは専門家に相談しましょう。何なら私へのメールでの質問や、MichibiQ編集部を通しての質問でも構いません。ご遠慮なくお知らせください。

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小林昭文(こばやし あきふみ)

埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人