教師の成長を支えるスキル論
第13回【理論】
「授業者スキル 実践編Ⅰ」の概要1
~授業者スキルの「教科書」を目指して~
ようやく「授業者スキル論Ⅰ_実践編」を上梓することができました。AmazonのKindle本として端末で読んでいただくことも可能ですし、PODとして紙の本を注文していただくことも可能です。このMichibiQが配信される時期(10/6(火))に買えるようになるかもしれない、というビミョーなタイミングです。

Amazonで「授業者スキル論」または「小林昭文」で検索していただけると見つかると思います。よろしくお願いします。
発刊を記念して、本号と次号の2回にわたって以下を述べます。
⑴この本の特徴とお勧めの読み方と使い方。
⑵この本で伝えたい「技の創り方と使い方」とは何か。
⑶「技の使い方の多さを誇る」より「技の質を高めること」の重要性。
⑷学校現場で簡単にできる実証実験のススメと現場支援の提案。
上記を意識しながら、今号(第13回)と次号(第14回)の目次を以下のように設定しまし
た。その上で「授業者スキル論Ⅰ_実践編」をお読みいただけると効果倍増です。
★今号(第13回)の内容
〈1授業がうまくいかないのは、あなたのせいではなく「技(スキル)論がないから」です〉
〈2教師の世界(授業者スキル・担任スキル)の世界には、なぜ「素振り」がないのか?〉
〈3授業の質を支えるのは「技の質(技の創り方)」と「技の使い方(変化のさせ方)」です〉
〈4技の変化の多さはさほど重要ではありません。質の高い授業なら生徒は飽きません〉
★次号(第14回)の内容(予定)
〈5 武道・スポーツに比べると「授業者スキル」は身に付けやすいが、落とし穴もある〉
〈6他校種・他教科の授業見学・意見交換は、なぜ効果が大きいのか?〉
〈7教室の後ろからより、廊下から見学する方が学びが大きいのはなぜか?〉
〈8本当に効果があるのか?「効果測定」と「実証研究」のお誘い〉
1授業がうまくいかないのは、あなたのせいではなく「技(スキル)論がないから」です。
日本には他国にない文化がたくさんありますが、「段級位制」もその一つです。始まりは囲碁の世界。江戸時代前期、17世紀後半に囲碁の家元=本因坊道策(ほんいんぼう・どうさく)が始めました。続いて、18世紀初頭に将棋も導入。そして、明治時代に柔道の創始者である加納治五郎が柔道にも段位制を導入しました。これが契機となり、剣道・弓道などの武道に広がり、更に書道・珠算といったさまざまな芸道・文化へと拡大していきました。(※1)
このシステムは単に人の序列化を目的にしていません。それぞれの世界の「技(わざ)のレベル」に段階性を付けたのです。つまり、囲碁・将棋・柔道の世界は18世紀までに技の段階性・体系化を整えていたことになります。一方、海外の他のスポーツ・文化には段位制がほとんどありません。その意味では、私たち日本人の文化と感性の賜物です。
武道における技の本質的な構造と上達過程を体系化したのは私の空手の大恩師=南郷継正(※2)です。その内容は技の上達過程を「創出過程(技を創る・技を身に付ける段階)」と「使用過程(技を使う・状況に合わせて技を変化させて使う段階)」と構造化しました。
この二つの段階のうち「技の創出過程(創る・身に付ける段階)」をわかりやすく説明すると「野球ならバットの素振り練習」「剣道・柔道・空手なら型(形)練習」「バスケットならドリブル・シュート・パス練習」などです。相手やボールを意識せず、「自分自身の身体を意識して、同じ形を繰り返し練習して技を身に付ける段階」ということになります。
それが身に付いたら「技の使用過程(使い方を身に付ける・実際に使う段階)」に進みます。この段階に入ると「技を変化させる練習」になります。「野球なら様々なコースに来るボールを打つ」「ストレート・カーブ・シュートを打つ」などです。このような練習を積み重ねると、試合で自由自在に動き・攻め・守ることができるようになります。
これらに比べると、「教師の技」「授業者の技」「担任の技」はほとんど言及されることがありません。当然、「技を創る練習(例:バットの素振り)」はありません。「創る練習過程」はないのに「毎日使ってばかりいる」という技論の視点から見ると不思議な過程ということになります。

これが多くの皆さんが「なかなか授業がうまくならない理由」なのです。これを解決しようとしてるのが、私。ということになります。
私は授業者の技(スキル)の構造を左図のように整理して、「基本スキル」と「基本パターン」と名付けました。その構造の詳細は是非「授業者スキル論」をお読みください。
〈2教師の世界(授業者スキル・担任スキル)の世界には、なぜ「素振り」がないのか?〉
上記の「基本スキル」を身に付ける練習過程は野球で言えば「バットの素振り練習」です。この「素振り」のような練習が教師の仕事の中にはほとんどありません。なぜなのでしょうか?その理由は〈1〉で述べたように、「技(スキル)論がない」からなのです。その理由の1つを私は「教師の技は日常的な社会人スキルでしかないから、これまで誰も気が付かなかった」からなのではないかと思っています。
野球なら「細いバットで速いボールを打つ」とか、バスケットボールなら「高い場所のゴールにボールを入れる」といった、「日常的ではない技」が必要になります。従って、「素振り練習」をしたり、「シュート練習をしたり」します。それに比べると、教師が使う技(スキル)は「説明する」「黒板に字や図を書く」「ワークの始まりや終わりの指示をする」等々の、「普通の社会人スキル(歩く・挨拶する・箸で食べる等々)」のように見えます。それ故、「わざわざ素振り練習をする必要はない」と思われているような気がします。
しかし、実際には違います。「生徒全員に聞こえるような大きくて滑舌の良い話し方をする」「予定した時間内にきちんと収める」「本質・構造・具体の論理構造が明確な文章で説明する」「後ろの生徒が見ても見える字で素早く板書する」等々の練習は不可欠だと私は思います。しかし、ほとんど取り上げられることはありません。これも「学校には技(スキル)論が欠落している」ことが原因だと思っています。
その結果、「声が小さいから生徒たちは理解できない」「だらだらと話すから生徒たちの集中力・理解力が落ちる」「えーあーが多いので生徒たちが飽きる」「しばしば、思い付きの昔話や自慢話が入るので生徒たちが戸惑う」等々が起きているのではないかと思います。
これらは教科授業の時だけの話ではありません。学年集会や全校集会の際に生徒の前で話す先生たちで、「原稿・メモ」と「ストップウオッチ」を持って話す先生を、25年間の教員生活で私は一度も見たことがありません。メモ用紙を持つ人は10人に1人くらいでした。
一方、私は集会で話す時はメモを作成し、ストップウオッチを持って話しました。話し始める前に、「今日は5分間話します。テーマは○○と××についてです」と宣言してから説明し、終了時には「以上で終了。4分40秒でした。静かに聞いてくれてありがとう」と言っていました。
この効果は大でした。「荒れる高校」として知られていた高校でも、この方法で私が話すようになったら、千人超の生徒たちが静かに聞いてくれるようになりました。もちろん、私は事前に原稿を書き、暗記し、ストップウォッチで計り、テープレコーダー(当時は)で録音して確認していました。要するに「素振り練習」です。多くの先生たちにお勧めしたい「教科授業に必要な基本スキルと練習方法の1つ」です。
〈3授業の質を支えるのは「技の質(技の創り方)」と「技の使い方(変化のさせ方)」です〉
このように「授業で必要な技」を「➀基本スキル」として同じ形を繰り返すことで身に付けて(技を創る過程)から、「➁基本パターン」を土台にして「教える内容や段階に応じて進め方を変える(=技の使い方を身に付ける過程)」という、段階的構造は知られていません。このような理論と指導方法・練習方法がないから、皆さんが、毎日、一生懸命に授業に取り組んでいるにも関わらず、「居眠りが多い」「成績が伸びない」「進学実績をあげられない」という現実が繰り返されているのです。
教職の皆さんの辛さの中身は、私の得意な「空手」に例えるなら、「突き技・蹴り技・受け技」等の基本(いわば「素振り練習」)を教えてもらう事もなく、いきなり「組手(試合)」をやらされているようなものなのです。
ベテランに「生徒がボーッとしていたら、話を止めて、何がわからないかを尋ねたり、具合が悪いなら保健室に行くように指示しなくてはだめだよ」と言われてもできるわけがありません。「論理的に時間通りに説明するという基本スキル」が身に付いてからなら、「生徒たちの様子を見ながら説明に変化をつける」という具合に、自由自在に「技の使い方」を変化させることができます。しかし、「大きい声で、生徒たちを見渡しながら、時間通りに説明する」という基本技さえ身に付けていない初心者には、そんな「応用」にチャレンジする余裕などないのです。
武道やスポーツの技に沿って言うなら、その前に「教室の後ろまで届く声で説明する」「えーあーを言わないで説明する」「5~10分と決めた時間で説明する」「本質(抽象)-構造-具体の論理構造に分けて説明する」等々の基礎練習(技を創る練習)をしておかなくてはならないのです。
私は55歳で「新しい高校物理授業」に取り組んだときに、1つの新しい技(スキル)を身に付けなくてはなりませんでした。それは、パワーポイント(ppt)とプロジェクターを使って「15分間で説明する」という技でした。当時(2007年)は「毎回pptとプロジェクターを使っていた」のは全校で私だけでした。つまり、見本も指導者もいないということです。その技を身に付けるために4月当初は、放課後、物理室を閉めて、暗幕を引き、ストップウオッチを持って何度も練習しました。まさに野球の「素振り」です。元空手家の私にとっては当たり前の「基本練習」でしたが、この種の練習をやっている先生はほとんどいないようです。
「えーあー」を言わず、「無駄な繰り返し」も入れず、「横道のジョークも入れない説明」を練習してみて下さい。つまり「基本スキル」をきっちり身に付ける練習をしてみてください。生徒たちが集中して聴ける説明に近づきます。
〈4 技の変化の多さはさほど重要ではありません。質の高い授業に生徒は飽きません〉
私の高校物理授業は65分授業を、「説明(15分間)」→「問題演習[おしゃべり、立ち歩き自由のグループワーク](35分間)」→「振り返り[確認テスト・相互採点・リフレクションカード記入](15分間)」のパターンにしていました。2年生の「物理Ⅰ(当時)」、3年生の「物理Ⅱ(当時)」の全部を同じパターンで構成していました。物理Ⅱを選択した生徒たちは2年間、このパターンの授業を受けていました。しかし、「飽きた」「たまには別のパターンにして欲しい」という声は、6年間、一度も出てきませんでした。
つまり、「色々な形の授業を実施できる技」はあまり必要ではないという事です。生徒たちにとっては、集中できて、内容が理解できて、入試に必要な力がつく授業なら、2年間同じパターンでも問題はないのです。
「時々はジョークを入れなければ」「時にはアタマ休めの時間をとってあげなくては」「ジョークの1つ2つは言わなくては…」という説明を、私はあまり信じていません。生徒たちにとって一番楽しい授業は、「内容が理解できて」「問題が解けるようになる」ことです。その上に、問題解決のために友達と協力する時間があれば、生徒たちは充分に満足なのです。
私はこのような「密度の高い物理授業」を実践していましたから、6年間の勤務の中で、一度も宿題を出したこともなく、放課後に補習をしたこともなく、夏休み・冬休みの「補習」をしたこともありませんでした。しかし、生徒たちからの人気は高く、毎年、選択者数は増加し、理系進学実績も着々でした。
その経験から私が感じていることは、ジョークや雑談で生徒たちの息抜きをさせる授業よりも、「生徒たちが理解できた、問題が解けた、友達に教えた、皆で協力した、問題が解けた」という経験の方を喜ぶものだと感じています。それを実現する力は、変幻自在に生徒たちを楽しませ笑わせる授業ではなく、「教科書が理解でき」「練習問題を解けるようになり」、「その過程で友達に教えたり、教えてもらったりできれば」、〈居眠りもなくなり、成績は向上する〉のです。1年目の5月ごろの面白いエピソードがあります。それは生徒たちがpptのアニメーションを「やめて欲しい」と言ったことです。
前述のように、毎回pptとプロジェクターを使っていたのは私だけ。物理室のホワイトボードには色も鮮やかなスライドが大人気。アニメーションで図を動かすとどよめきや拍手が起きていました。しかし、5月。「先生、もうグルグル回さなくていいよ」「気が散るよ」と言い出したのです。「わかる授業」「集中できる授業」なら、生徒たちには「息抜き」も「ジョーク」も不要なのです。そして何より「わかる授業」「問題が解けるようになる授業」なら、生徒たちに「余計な変化」「息抜き・ジョーク」等は不要なのです。ついでに。「怖い顔」も不要です。私は「いつも笑顔で説明する」を心がけていました。
どうぞ、それを実現するために、「説明するスキル」「ppt等を作成し、表示するスキル」「グループワークを支えるスキル(ファシリテーション・スキル)」等々を身に付けて欲しいものです。

(※1) Wikipedia
(※2)空手家、日本弁証法論理学研究会主宰、著書「武道の理論(三一新書)」「武道の復権(三一新書)」「武道とは何か 武道綱要(三一書房)」他。
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小林昭文(こばやし あきふみ)
埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人
