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小林昭文先生連載「教師の成長を支えるスキル論」 

第7回【理論編】 「若手も熟達者も成長する研究授業」
~「技の本質=意識の集中」を活用して「研究授業」で初心者を伸ばす~

新しい視点に立ち「若手も熟達者も成長する研究授業・研究協議」を提案します。私の高校教諭時代の体験を「技の透明化理論」に沿って見直し、以下の順に述べます。

〈1 「研究授業・研究協議」の本質的な問題は何か?〉

〈2 「技(スキル)の本質」を踏まえた理論的な提案〜箸の使い方に見る技の発達段階〜〉

〈3 「指導者は〈授業者の意識の集中を妨げないこと〉が必須」~「心の防具」が重要〉

〈4 「指導者は丁寧に言語化する」ことで「第2のパラドックス」を克服できる〉

 

〈1 「研究授業・研究協議」の本質的な問題は何か?〉 

現在、日本中で行われている「研究授業・研究協議」には、重大な問題があります。それは、「授業者スキル」を育てる構造が存在しないことです。

研究授業の授業者に指名された教師(若手が多い)は、寝る間を惜しんで指導案を書き、何度も書き直します。当日は大勢の見学者の前で緊張しながら授業をし、その後は欠点を指摘されることが多いようです。これに耐えきれず落ち込む人や、中には退職した人もいます。私も複数人知っています。

研究協議では「全員が発言する」形式が多いようですが、批判的なことを言えば「次は自分が攻撃される」ことを恐れ、当たり障りのない発言しかできないという声も聞こえてきます。大学等の研究でも「形式主義」「教師の成長に役立たない」などの批判は多いものの、実践的な代替案はほとんど提示されていません。

私は「だからやめてしまえ」と言いたいのではありません。スキル論の立場に立てば、解決策があると提案したいのです。

 

現役の高校教諭時代、私はこの問題に挑戦し、「授業者を傷つけない振り返り会」という方法を開発し、実践し、一定の成果を上げることができました。この詳細は次回、実践編として紹介します。

今回は「技の透明化現象(2つのパラドックス)」の視点から、この問題の構造を整理し、対策を提案します。現在の研究授業・研究協議の最大の問題点は、初任者・若手がスキルを身につけ、ブラッシュアップする構造がないこと。そして、指導する熟達者にもメリットが少ないことです。

これを解決するためには、以下の視点が不可欠です。

⑴ 授業の質を左右するのは「授業者スキル」であるという視点を共有する。

⑵ 若手・初任者には「スキル論」の視点で支援し、第1のパラドックスを乗り越えさせる。

⑶ 熟達者は自分の技を言語化して伝えることで、第2のパラドックスを乗り越える。

 

〈2 「技(スキル)の本質」を踏まえた指導方法〜箸の使い方に見る技の発達段階〜」〉

技(スキル)を身に付ける順序は、スポーツ・武道・その他の世界である程度の手順が見え始めています。それは、①「技の形を覚える」=「自分自身に意識が向いています」。②「動き方・動かし方を覚える」。ここが難しい。相手(対象)を目標にしつつも、まだ、意識は「自分自身の手足の動き」に向けます。動かし方もきちんとできるようになったら、③「対象(相手)」に意識を向けます。この辺りの説明は私の恩師=南郷継正(*1)の上達論を土台にしています。

授業者の技(スキル)で言えば、最初から「生徒たちを意識して動かそう」とするのではなく、まずは「自分自身の話し方、動き方を意識する」ことが大事です。そうしないと「技(スキル)」を正しく身に付けることは困難です。

 

より構造的に述べると、技は「形を創る」→「使い方の形を創る」→「自由自在に使う」の段階で熟達します。図1は「箸の使い方の上達過程」を示したものです。

図1の出典: 「兵左衛門」https://ssl.hyozaemon.co.jp/nihonbo/service/mochi.html

関連動画: https://www.youtube.com/watch?v=UdO32ztknlQ

 

この図1を見て「自分の箸の持ち方は間違えていた!」と気づいた方はラッキーです。この説明通りに練習してみて下さい。すると技(スキル)を身に付ける時の「意識の向け方の変化過程」を味わうことができます。

図1で大事なことは、「まだ、ご飯・豆腐などの〈対象〉が登場しないこと」です。少し面倒ですが、南郷上達論としては大事なところなのでスモールステップで説明します。


技を身に付けるプロセスは

「Ⅰ技の形を創る」→「Ⅱ技の使い方の形を創る」→「Ⅲ技を自由自在に使う」

と進みます。

上記の「Ⅰ」の段階が以下のAとBです。①~⑥は図1内の画像の番号です。

A:①②③は「上側の箸の持ち方(=形)」を身に付けます。
③は「箸の動かし方」の練習のように見えますが、実際には「動かせる形になっているかどうかを確認しているだけ」です。

B:④⑤⑥は「上側の箸と下側の箸の持ち方(=形)」を身に付けます。

⑥は「上下の箸の先端がぴたりと合う形かどうかを確認しているだけ」です。

従って、①~⑥までは「Ⅰ形を創る」段階です。

ここまでできたら、ようやく「Ⅱ技の使い方の形を創る」段階へ移行します。対象が「ご飯」か「豆腐」かによって、「力の入れ方・箸の動かし方」=「使い方」を変えます。これが「技の使い方の形を創る過程」ということです。ここまで出来たら、あとはどんどん使う事です。


慣れてくると「技の形・使い方の形(=自分自身)」を意識することなく、対象に応じて食事を進めることになります。更に熟達すると「箸の持ち方の形も対象も」さほど意識することなく、一緒に食事をする人たちとの会話を楽しみながら、食事が進みます。この段階が「技が身に付いた」「技を自由自在に使いこなす」段階です。自分が今どの段階なのかを確かめながら食事をしてみてください。

中には「私の箸を使うスキルは完璧だから体感できない」という方もいらっしゃると思います。その方は、「左手で箸を持ってチャレンジ」してみて下さい。初心者のタイヘンさ、技を身に付ける過程で大切な「意識の向け方の段階性」を体感できます。

 

〈3 「指導者は〈授業者の意識の集中を妨げないこと〉が必須」~「心の防具」が重要〉

箸の使い方の例でお判りいただけたと思いますが、初心者は「箸を持つ形を創る→箸の動かし方を創る」と複雑な意識の仕方を積み重ねて技に熟達していきます。そしてようやく「ご飯・豆腐」などを意識しながら、箸を自由自在に使えるようになります。逆に言えば、最初から「ご飯・豆腐」等の対象を意識すると、「技づくり」に集中できないという事です。

「授業者スキル」でも同じです。初心者が最初から「生徒を意識すると技(スキル)が育たない」のです。この視点に立つと、初任者・若手が「指導案通りに進めなくてはいけない」と考えている時(=指導案を意識している)には、「自分の技(スキル)」はとうてい意識できないということです。更に生徒が色々なことをするし、後ろに立ってみている先生たちの動作も気になります。「あとで馬鹿にされたり、叱られたりしないようにしなくては‥」と考えていると。指導案の計画は忘れてしまってもおかしくないのです。

そこで指導教諭の人達は「初任者・若手」ができるだけ「自分自身の技(スキル)」を意識していけるようにサポートしてあげることが不可欠です。初任者・若手が傷つかないように、傷つくことを過度に怖がらないように配慮してあげることを、私は「心の防具」と称しています。元々、人殺しの技術であった剣道や柔道が世界に広がった理由は、練習や試合の中で怪我をしないようにするための「防具(剣道の面・胴・小手や柔道の畳など)」を編み出したからです。調べてみると、剣道の防具を広めた北辰一刀流の開祖=千葉周作(発明したのは別の人)や、柔道では畳のみならず技の形や判定の方法も変えた加納治五郎は天才的です。感動してしまいました。この詳細は別途本にします。

その歴史に倣って、私は授業者を「傷つけることなく育てるための〈心の防具〉」を提案します。基本的には授業者が「授業より周囲の見学者を恐れたり」、「指導教諭の言動におびえたり」することがないようにして欲しいという事です。

例えば以下です。

⑴板書のストレスを軽減する。


最近は小中高校生の手書き場面が激減しました。そのため若い人たちにとっては「チョークで黒板に書く」のはかなりのストレスだと思います。これを最初は「パワポとプロジェクター」または「事前に書き込んだ模造紙やマグネットシート」を使わせるなどの工夫があると良い気がします。

⑵説明のスキルを高める

セリフを丸暗記するのではなく、説明内容を構造的にメモさせます。「本質・構造・具体」というように論理構造に沿ってメモをさせます。これをチラチラ見ながら説明練習をさせると良いと思います。論理的思考力を高めることにも役立ちます。

同時に「良く通る声で」「笑顔で」「児童生徒全員を見渡しながら」、説明する練習をさせることも必要です。このあたりはスマホを使って録音して聴き直す、可能なら「文字起こし」をして読み直すと、説明のスキルは格段に向上します。

⑶ワーク中の動き方・声の掛け方のスキルを教える

最近は「対話的な学び」を実践するためにグルプワークが増えました。しかし、やらせっぱなしにしておくと、ただの雑談になったり、一部の生徒がやっているだけになったりしがちです。これらに対する授業者の動き方・声の掛け方も教えたいものです。

 

これらを教えることは実習生や若手が「児童生徒をじっとさせよう、眠らせないようにしよう」という「他者に向かう意識」を「自分自身に向かう意識」に転換できます。箸の使い方で、「ご飯や豆腐」を意識する前に、「自分の箸の持ち方・動かし方」を意識することを促進するのと同じです。最初のうちは遊んだり、ぼーっとしたりしている生徒への注意は指導教諭がしてあげて、実習生には「自分自身の技(スキル)づくり」に集中させてほしいものです。

〈4 「指導者は丁寧に言語化する」ことで「第2のパラドックス」を克服できる〉

私は幸か不幸か25年間の教員生活の中で教育実習生を担当したのは2人だけです。その最初の学生は、私が越ケ谷高校で新しい高校物理授業を始めた年の高校3年生だった元生徒でした。大学物理学科に進学して大学4年生の時に教育実習を受けに来てくれました。

実習開始の前週、打ち合わせに来てくれたので「どんなことをやりたいの?」と尋ねると、「小林先生のような物理授業をできるようになりたいです」とのこと。これにびっくり。2週間で可能だろうか?あわてて立てた計画は以下でした。粗削りですが、みなさんが実習生を育成する方法のヒントにはなる部分もあると思います。ご参考に。

 

⑴私の説明用pptデータを渡して練習させた。

当時の私の授業は「説明15分間→おしゃべり立ち歩き自由の問題演習35分間→確認テストと振り返り15分間」のパターンが完成していました。そこで以下を指示しました。

 ⒜私のpptデータを渡し、「15分間で説明する練習をして下さい」と指示。

 ⒝練習ができたら実際の授業で「15分間の説明」だけをやらせた。その後は小林が授業を引き継ぎ、実習生は見学。

⑵グループワーク中のファシリテーションは次のステップで練習させた。

 ⒜まずは私のファシリテーション・プロセスを見学させる。

 ⒝私と生徒とのやりとりを見聞きして、疑問があれば授業後に質問を受け解説する。
 ⒞慣れてきたら、私のまねをして生徒に介入させる。私はなるべく観察する。。

 ⒟授業終了後に質疑応答の時間をとる。

⑶2週間の最終日に「研究授業」。

まだまだ物珍しい小林の授業を実習生がやるらしい‥との評判が校内に広がり、いつになくギャラリーが多い研究授業になりました。結果は見学していた先生たちが仰天。

「これ、小林さんの授業の完全なコピーだ!」「すげー。時間配分もぴったり」と大絶賛。なんと授業を受けていた生徒たちも拍手喝采。「すごーい。小林先生の授業を受けている時と全く同じように勉強できました」「明日から、小林先生の代わりもできますよ」‥。

⑷後日談 

この実習生は大学院を出て民間企業に就職。しばらくして、高校教諭に転職。現在も私立高校の教諭として活躍しています。3~4年に一度くらいの割合でお会いしています。

こんな楽しい教育実習を全国で再現出来たら、教員志望者も増加すると思います。

⑸指導教諭の私にとってのメリット

この時に私は「初めて」自分の授業スキルを言語化したことになります。実習生を育てるために、私は自分自身の技(スキル)を言語化することを迫られたという事です。この経験がその後の「授業者スキル論発見」の土台になりました。その意味では指導教諭にとってもメリットが大きい教育実習指導という事ができます。

 

(*1)南郷継正(なんごう・つぐまさ)空手家、日本武道空手玄和会創始者および師範、日本弁証法論理学研究会主宰。科学的武道論・上達論の提唱者。

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小林昭文(こばやし あきふみ)

埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人