MichibiQ

教育現場を変えるICT活用事例と実践知のメディア

小林昭文先生Q&Aシリーズ

第1回「研修会講師として気づいた「不思議な構造」と、そこから生まれた5つの工夫」

毎月第3週は、みなさんからいただいた質問をもとに書いていきます。今回の質問はMichibiQの公式XのDMでいただいた下記の質問です。

Q「たくさんの学校に行かれていたと思いますが、講師として工夫していたことはありますか?」

私は大学教授を務めていた6年間、火水木は大学授業、金土日月は全国の研修会へ出かけ、年間100回を超える講師をしていました。その中で、「講師としての構造」に気づき、いくつもの工夫を積み重ねてきました。

今回はその中から、みなさんが「明日からでも授業改善に役立つ5つの工夫」として紹介します。

〈1 講師として気づいた「不思議な構造」〉

研修会に呼ばれると、だいたい次のような流れになります。
受付 → 応接室・校長室へ案内
管理職の先生方と名刺交換
会場で90〜120分の講義
「質問はありますか?」→ ほぼ1人だけ質問
再び応接室で挨拶して終了 

どの会場でも「質問担当者」を決めてあるようで、質問は形式的に1つだけ‥。 

これでは「〈授業改善に本当に必要なこと〉には触れられない」と感じました。

 更に‥「管理職以外の先生と話せない」「普段の授業が見られない」「現場の課題が
わからない」‥にモヤモヤしていました。

周囲からは「研修会ってそういうもの」と言われましたが、私はどうしても納得できませんでした。

〈2 そこから始めた「小さな挑戦」〉

私は昔から「字義通りに受け取る」傾向が強く、カウンセリングを学ぶ中でその特性を客観的に理解してきました。
 子どもの頃は忘れ物が多く、机の中はぐちゃぐちゃ。(今でも‥か(笑)) でも、周囲の大人たちは私を否定せず、「ちょっと変わっているけど、テストはできるね」と受け入れてくれました。

その経験から、「疑問をすぐ口に出して相手を怒らせない」「小さな工夫を積み重ねれば、構造は変えられる」という学びを得ました。

そこで、主催者に迷惑をかけない範囲で、少しずつ「構造を変える挑戦」を始めました。以下の5つは、その中でも特に効果があった方法です。

〈3.工夫① 名刺交換で「対話の入り口」をつくる〉

PCやプロジェクターの動作確認を口実に会場に早めに入ることにしました。そして、すでに来ている先生方と名刺交換をしました。

・名刺を持っていない先生にはこちらから渡す。
・「あとでメールください」と声をかける。
・名刺を「対話の種」にする。

これだけで、講義前に現場の空気がつかめ、先生方との距離が一気に縮まります。事後にメールをいただき継続的なやりとりに繋がることもありました。

〈4.工夫② 名刺交換の「列」をつくらない〉

講演後、名刺交換の「長蛇の列」ができることがあります。
これは対話の機会が奪われ、時間もかかります。

そこで私はこう提案しました。

「皆さん、丸くなりませんか?

まず私と名刺交換して、その間に隣同士でも交換してください。

そのまま丸くなって、質問や意見を出し合いましょう。」

これを断った人は一度もいません。 

終わる頃には「この方法、学校でも使えますね」と言われることが多くありました。

これは、生徒の「質問の長蛇の列」にも応用できます。 

丸くなれば短時間で終わり、生徒同士の対話的な学びが自然に生まれます。

〈5.工夫③ 廊下から授業を見る「3つのポイント」〉

ある学校から「全教員の授業にアドバイスを」と依頼されたとき、研究授業では間に合わないため、「3〜4クラスを同時に廊下から観察する方法」を編み出しました。

観察の流れ(50分授業の場合)はおおむね以下です。

⒜序盤(0〜15分)

「A:エンゲージメント・スキル」を中心に以下を見ていきます。

・授業開始の生徒の集中度
・スタートダッシュが効いているか
・足りないスキル/良いスキルをメモ

⒝中盤(15〜35分) 

「B:インストラクション・スキル」

「C:ドリル・スキル」

「D:ファシリテーション・スキル」

を中心に見ていきます。例えば以下のように分析します。 

・説明中に寝ている生徒がいる/遊んでいる生徒がいる→「Bの不足」

・ワーク中の生徒の集中度が低い→「C・Dの不足」

・上記に沿って良い点と課題をメモして後で伝える。

⒞終盤(35〜50分) 

「E:リフレクション・スキル」

・「コンテンツ」と「プロセス」に分けて文章で書かせているかに注意する。

・書かせ方・まとめ方で集中度が大きく変わる

この方法は、みなさんが他の先生の授業を見るときにもすぐ使えます。同時に自分自

身の授業の際の意識すべきことも明確になります。

〈6.工夫➃ 休み時間も廊下でウロウロ〉

実はこれは偶然の副産物で、その後の「授業者スキル」の発見にもつながる体験でし

た。5工夫③で述べたように廊下から3-4クラスを眺める、を続けていると、クラスに

よっては、「授業中と休み時間」で雰囲気に差があるクラスがあることに気が付きまし

た。休み時間にも大人しいクラスが、授業中にも大人しいのなら、それはそのクラスら

しさが持続しているだけなので、大した問題ではありません。しかし、落差が激しいク

ラスが時々あります。休み時間はワイワイと騒がしいクラスが、授業になると急にシュ

ンとしているように見えます。その逆のクラスもあります。

案内してくれる先生にこのことを尋ねると、「休み時間の様子は、そのクラスの性格

ですね。授業が始まったら静かになるのは〈先生がこわいから〉だと思います」と笑っ

て教えてくれました。「なるほど。その逆のクラスもあったんだけど、それはなぜ?」。

「ああ、あれは教科担当の先生の腕ですよ。彼はどのクラスを指導しても温かい雰囲気

をつくるんです。凄いですよ」‥これは、私にとってはショックでした。授業中のクラ

スの雰囲気は授業者が作っているんだ! 

だとしたら、休み時間と授業中の違いをどうやって見定めればよいのだろう?これは

簡単なことでした。休み時間を見ておけばよいのです。10分休みに自分の教室から遠

くまで行って遊ぶ生徒はほとんどいません。だから、授業見学の10分前に廊下に行

き、生徒たちの様子を見ていればいいんだと気が付きました。それ以来、休み時間に廊

下をウロウロしながら、次に見学するクラスの雰囲気を把握することにしました。これ

はとても役に立ちました。

そして、もうひとつの「大発見」にもつながりました。それは、「始業チャイム前に

入室する先生」と「そうでない先生」がいる、ということでした。そして「始業チャイ

ム前入室」をしている先生の授業はおおむね評判が良い、ということです。これが私の

「授業者スキル」の発見の第一歩でした。

〈7.工夫➄ 研修会は「対話中心」にする〉

私は研修会講師の時の席は、可能なら「グループ席」にしてもらいました。教科・年代・男女が混ざると活性化し、慣れてきたら年代別・男女別も効果的です。

進行は次のサイクルです。

1. 講義を聞く 

2. グループで質問をつくる 

3. 全体で質疑応答 

この形式にすると、寝る人はいなくなり、深い議論が生まれます。そして多くの先生が「生徒にもグループでやらせてみよう」と発想を変えます。事後に「あの時のやり方をヒントに、その後の校内研修会では「グループ席」が定番です」とメールをいただいたこともあります。

〈8.工夫➅ リフレクションを共有する〉

私は研修会で必ず「リフレクションカード」を書いてもらい、内容を抜粋して一覧にして学校へ返していました(名前は伏せる)。

理由はシンプルです。「他者の気づき」を読むと、自分では到達できない視点に触れられる、つまり、リフレクションの連鎖が起きるからです。

このヒントは私の物理授業でやっていたことです。生徒のコメントを時々ワープロで打ち直して配布すると、次のような声が毎年のように出てきました。

「〇〇君の説明がわかりやすかった。先生の説明より理解できた」 

「友達に説明したら理解してくれて嬉しかった。教えると自分がよくわかる」

最近はスプレッドシートで匿名のリフレクションを集め、コメントを返す形にしています。これは授業にも校内研修にもすぐ応用できます。

〈まとめ〉

今回紹介した5つの工夫は、すべて「構造のズレに気づいたら、小さな挑戦で修正する」という私の方法から生まれたものです。この考え方と方法は皆さんにも役立つと思います。どれも明日から使えます。ぜひ試してみてください。そしてまた、質問をいただけることを楽しみにしています。

質問はMichibiQ公式XへDMで受け付けています。→MichibiQ公式X

小林昭文(こばやし あきふみ)

埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人