「教師の成長を支えるスキル論」シリーズ
第15回【理論】
「私(=外部指導者)が活躍するほど授業改善が進まない理由」
~授業改善のリーダーは校長でなくてはならない~
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校長先生たち向けの拙著紹介スピーチを準備中に「理論的な大発見」をしました。それは「実践的指導者を自認する私」が、「現場で活躍するほど授業改善が停滞する」という皮肉な現象の原因と解決策の発見です。以下、詳述します。
★本号(第15回)の概要
〈1 理論的発見の契機は「小林が頑張ると管理職が不在になる」という現象〉
〈2 「スキル論の整備遅れ」が、管理職のリーダーシップを阻害した〉
〈3 解決策は管理職が廊下から授業を看取(かんしゅ)し、「2つ褒めて1つ質問する」〉
〈4 「管理職に支えられた私の実践」&ゴールは「授業改善が職員室で話題になる学校」〉
〈1 理論的発見の契機は「小林が頑張ると管理職が不在になる」という現象〉
私は高校教諭の定年間際の6年間、「新しい高校物理授業」を創出し「成績向上」「居眠り皆無」「選択者数倍増」「赤点消失」等の成果を上げ続けました。定年退職後は大学教授の傍ら、講演会登壇、現場指導、多数の著作上梓を続けました。しかし、私の授業の再現性はほとんどありませんでした。その原因追究の過程で「授業者スキル論」のアイデアを得て、ある程度の再現性が出現したものの、「個人的成功」のレベルに留まりました。
私のことを認めてくれた管理職が複数回継続して私を呼んでくれた学校もありました。私は現場で「授業を見学し」、事後にその授業者に「アドバイスをし」、成果もあがりました。
当初、その過程に管理職が「必ず傍についてくれました」。時には事後に「素晴らしい!あんな風にアドバイスすれば良いのですね」と喜んでくれました。継続しているうちに、「前回指導していただいた先生の授業がとても良くなり、成績が急上昇です」「スキル論の威力ですね!」と、当時はアイデアレベルだったスキル論を絶賛してくれました。
しかし、継続するうちに校長先生は私の指導に立ち会わなくなります。すると、私の指導を受ける先生たちの意欲が減退します。中には「管理職の指示なので、仕方なしに小林の指導を受ける」という態度の先生たちも出てきました。「その時間だけは授業を見せ、アドバイスは聞くけれども、あとは何もしない」‥イベント型研修の弊害が出現していました。
実はこの頃、私は「校長先生がもっと普段の授業を見て、アドバイスしてくれるといいのになあ‥」と思っていました。しかし、これは無理な要求でした。理由は2つ。第1は「スキル論が未完成だった」こと。第2は、スキル論に基づいて管理職が短時間に授業を看取(かんしゅ)して、「褒める」「質問する」等の指導方法を提示できなかったこと。これらが意欲的な校長先生たちを、結果的に「イベント主義」に導いてしまったと反省しています。
〈2 「スキル論の整備遅れ」が、管理職のリーダーシップを阻害した〉
「スキル論の整備遅れ」の中身は2つです。1つは「理論的な説明が不足していた」こと、2つは「その理論に基づく管理職の望ましい行動を提示できなかった」ということです。特に大事なのは「スキル論の使い方=指導方法」を提示していなかかったことです。
これは「スキル論」に即していえば「基本技(スキル)」は提示したものの、「技の使い方の基本」=「基本パターン」を提示していないということです。これは「基本」だけ教えて、「試合をやれ」というのと同じことでした。
これは「完全に私の責任」です。それを棚上げして「管理職がリーダーシップを発揮していない」と責めるのは本末転倒でした。その結果、「イベント主義的な研修会」になり、何度指導者を呼んでも組織的な授業改善にはつながらず、結果として、「管理職がリーダーシップを発揮できないままにしてしまった」のは、私の責任だと感じています。これらを踏まえ、改めて、「管理職がリーダーシップを発揮して、学校全体の学びを変え、継続的な授業改善を実現する方法」を提示します。
〈3 解決策は管理職が廊下から授業を看取(かんしゅ)し、「2つ褒めて1つ質問する」〉
※「看取(かんしゅ)する」とは「見てその本当のところを知ること。見て会得すること。(精選版日本国語大辞典)」の意味です。ここでは「授業中に、授業者がどのスキルを意図的に使っているか、いないか等を理解すること」の意味です。尚、「基本スキル・基本パターン」の内容には触れていません。恐縮ですが拙著や他の資料を参考にしてください。
⑴授業は「廊下から見た方が理解が深まる
教室後方に多くの先生たちが立ち並ぶ、グループワークに押し掛け、時には発言するなどの「妨害活動」とも言える行動があります。「科学的な観察」の基本は「対象にできるだけ影響を与えずに見ること」を踏まえて欲しいものです。
最適な見学方法は「廊下から見る」です。最近は教室と廊下の間の壁は「全面ガラス張り」が増えたので楽です。ガラスにあまり近づかずに教室全体を見渡します。もし前後のドアについている「覗き窓」しかないなら、そこから中を見ます。この場合はある程度ドアに近づく必要がありますが、顔を密着すると滑稽なので適度な距離を意識してください。
「全面ガラス張り」の教室を廊下から見る時も、ガラス窓に密着せずに、廊下の中央あたりから見る方が品位を保持できます。
⑵「後方から見学する」と見えること
廊下の後方から黒板の方を見ると以下を看取することができます。
①授業者の表情・視線・身振り手振り・板書・スライド等が見え、声も聞こえます。
基本スキルのA1「チャイム前に入室する」、A2「笑顔で児童生徒と接する」、A3「始業前にできることは済ませる」、A4「コンテンツとプロセスの内容を示す」、A5「始業チャイム後、スムーズに本論に入る」の全部を看取できます。
②後方から見ると、遊んでいる生徒も見えます。
PC画面に関係ないサイトを表示している生徒、机の下の引き出しに漫画等を入れて読んでいる生徒、引き出しに入れたスマホで遊んでいると生徒‥。多くの場合生徒たちは後方から見られていることに気がつかないので、じっくり看取できます。
③ドアから離れて廊下の反対側まで下がると、教室全体を俯瞰できます。
集中している生徒、寝ている生徒、遊んでいる生徒‥はおおむね看取できます。
⑶廊下を教室後方から前方へ移動しながら見ます。
各列の生徒たちを真横から見ることができるので、「教科書を見ている」「ノートを取っている」「隣の友達と遊んでいる」などが見えます。位置を変えることで、奥の席(校舎の外窓に近い席)の生徒の様子も見えます。
⑷廊下の教室前方位置から教室内の後方を見ます。
このあたりになると生徒の表情と手の動きを把握できます。先生の話を集中して聴いている、眠そうにしている、寝ている、たぶん余計な資料等(ときには漫画等)を見ているなどもおおむね把握できます。
⑸上記のような生徒の不適切な授業態度を指摘することが目的ではありません。
大切なのは、授業者はそれらを把握しているかどうかです。生徒たちの適切ではない行動の背景には「先生の説明が理解できない」「すでにわかったことの繰り返しなのでつまらない」「内職していても注意しない先生だと分かっているから遊んでいる」等々の可能性があります。
これらをイチイチ授業者に注意をする必要はありません。この場面を覚えておいて、後日また見てみる。それがいつも、他のクラスの授業でも継続しているのなら、後述するように「質問をする」ことで注意を喚起するのが良いと思います。
⑹更に前方に移動します。前方のドアの覗き窓から見ます。
教室前のドアの覗き窓に顔を付けると校長先生の顔が覗き窓いっぱいになり、生徒が笑い出しますor気味が悪いと言い出します。それより更に教室前方方向に移動して、ドアから少し離れて教室後方を見るようにします。この位置はある意味でベストポジションです。
それは授業者には見えず、大半の生徒も気が付かず、しかし、見学者からは「ほぼ生徒全員の顔が見える」からです。意欲的か、眠そうか、遊んでいるかがよくわかります。その様子と「基本スキル」を照らし合わせると、「どのスキルが欠けているから生徒が寝ているか」などの推測も容易になります。
⑺「2つ褒めて、1つ質問する」
初めてこの活動をすると、授業者のアラがたくさん見つかることになります。色々なアドバイスをしたくなります。しかし、それは一部の先生たちには大きなストレスになります。
「校長が監視し始めた」「人事異動に反映させるのではないか」等々の疑心暗鬼が広がりかねません。そこで私がよくやる方法が役立ちます。それが「2つ褒めて1つ質問する」です。
例えば「始業チャイム前に入室、良いですね。それから、説明中は笑顔なのも良いと思いました。ちょっと気になったのですがワーク中に全体に説明していましたか?」という具合です。多くの先生たちは1つ褒められたら「社交辞令」と受け止め、2つ以上褒められたら「本心で褒められた」と良い気持ちになるようです。安心してくれます。
その安心感があるところで、「ワーク中に質問していましたか?」と質問されると、気づきを促すことができます。自己理解が促進されます。「あ、そうでしたか?気が付きませんでした。これから意識してやってみます」とか、「そうなんですよね~。事前に指示すべきことを忘れていてワークが始まってかに気が付いて、追加してしまいました。次の授業では気を付けたいと思います」となる可能性が高いものです。
これらの活動をまずは校長先生に意識的に率先垂範して欲しいものです。「2つ褒め続ければ」、先生たちは校長先生が廊下から見ているのに気がついても嫌がりません。そうなると、生徒たちも「先生、校長先生ににらまれてんじゃないの?」なんて揶揄もしません。それに慣れてきたら、それを教頭先生と一緒にやりながら、見方・声の掛け方を「伝授」していただきたいのです。その次は、教頭から学年主任や生徒指導部主任・進路指導主任などへと広げていただきたいのです。やがて、校長先生が巡回する時間は少なくても、色々な先生たちが見て回ります。このように校内の動きを変えて、雰囲気を変える働きをしていただきたのです。
〈4 「管理職に支えられた私の実践」&ゴールは「授業改善が職員室で話題になる学校」〉
以上、述べてきたことの土台の大半は、定年退職前の最後の勤務校=埼玉県立越ケ谷高校での経験です。まだ「アクティブラーニング」という言葉もない時代から、その言葉が流行り始める時期の事です。その時の校長先生や同僚のおかげで私は「個人の授業改善」と「組織的な授業改善」をスムーズに進めることができました。お礼と共に、その頃のエピソードを紹介しておきます。
赴任当初のF校長は「居眠り多すぎ」「それを注意しない教師もけしからん」と立腹し、年度途中で「授業改善委員会をつくる!」と言い出しました。この時、私は校長室に呼び出され「委員会に入れ」と言われました。そこで「生徒の主体性、教員の主体性を大事にする方針なら入れてください」と返事。「そのつもりだ」との回答に安心しました。これが、私が個人的授業改善から組織的授業改善を研究する契機になりました。今でも感謝しています。
次のS校長も同様路線で協力してくれました。「私も小林さんのようなことをしたい。手はないか?」と問われたことがあります。全校集会の校長講話の中で一方的な話だけでなく、「生徒を小グループに分け、校長が質問を出し、グループで話し合わせ、意見を出させるのはさほど難しくないと思います」と回答。数日後に校長がいきなり始めて全職員が仰天。
しかし、これは学校全体に良いインパクトを与えてくれました。このような管理職の支援は今振り返っても有り難い事でした。
そして職場の雰囲気も変わりました。ある時の授業改善研究委員会の定例会でのエピソードです。一番若いT先生が話し始めました。T先生は新任の若い先生。大学では生物学、大学院では教育学を専攻。私にとっては理論的知恵袋のような存在です。
「最近は空き時間に職員室にいる先生たちの話題が変わりましたよね」。
「え?そう?私は物理室にいることが多いから乗り遅れているか?どんな変化?」と私。
「最近は『お前、最近どんな授業やっている?』
『グループワークを入れた。これがなかなかいいんだよ』
『へー、どんな風に?』
『まず居眠りがなくなった。質問も増えた。だからこちらも楽しい』
『そうなんだ。その授業見せてよ。見に行ってもいい?』
『いいよ。いつでもどうぞ』という感じの会話が増えました」
「そうなんだ。気づかなかった。そもそも、それ以前は、どんな話題が多かったの?」
「うーん‥『生徒の悪口、管理職の悪口、保護者の悪口』ばかりでしたね。それに比べると、とても健全な職員室になってきましたよ」。
これに全員が大爆笑。
こんな職場だったので、私は「おしゃべり、立ち歩き自由」の物理授業を6年間継続できたのだと思っています。
これらの大元の土台は、結局は校長先生のリーダーシップだと、今、改めて強く感じています。私が仕えた校長先生たちに感謝感謝です。現在は理論的な整備がだいぶ整いました。校長先生がリーダーシップを発揮することで、全国に「楽しくて成績の上がる授業が増え続ける学校」が続出することを期待しています。
小林昭文先生 授業のお悩み相談会
次回は11月19日木曜日 20:00からです!!
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小林昭文(こばやし あきふみ)
埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロとして修行したのち、埼玉県公立高校理科(教諭)として25年間勤務。
定年退職後、産業能率大学経営学部教授(クリティカルシンキング、アクションラーニング(質問会議)等の授業を担当)。
現在は㈱AL&AL研究所代表。
著書「アクティブラーニング入門(小林昭文著/産業能率大学出版部)」他多数。
NHKの教育番組にゲストとして出演経験を持ち、さまざまな学校への指導助言を行う教育界の泰斗の一人
